セカコイ 長編

□小野寺律=りっちゃん!5
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ホテルの会計をする高野の指先を
ただ律は熱を持った頬をもてあまして
見ていた。


ここに入ってきたときとは違う
正反対の心内。





(俺達   両思いってことだよな)



『俺ん家行こう』


律は、その誘いに静かにうなづいた。







だって まだ色々話したいことがある


本名が小野寺律だってこと



そして 聞きたいことがある。



でも


おかしいのかな





こんな状態なのに







「逃げんなよ」


振り返り、高野は口調の割には微笑んでこちらを見ていた。
居たたまれなくなって、顔を伏せる。








好きって ただ

それを聞けただけで

なにも互いに知らないのに


なんで 満足してんだろ 俺












雨の匂いがコンクリートがら浮上していた。
きらきらと落ちていく雫は
取り残された都会の自然。


「手つなご」

「えっ や、いやですよ」

「あっそ」


数歩下がって律はついて行った。
前方に見える高野はその立ち姿だけで
高貴なオーラを放っている。



(やばい  今まで罪悪感が
俺の感情のすべての上にあったけど)






それが取り除かれた今







(だきつき、たいなぁ)






店の人とかに 優しい ソレを







高野さんを









独占できたらなぁ。なんて





「…何 やっぱ手つなぎたいの」

「………は ぃ あ、いいえ 別に」


「クスッ はいはい じゃあつなごうか」


白くて冷たい指が絡んで
律は はずむ胸のまま高野の方に寄っていった

笑ってる




高野が 笑ってる



それだけで律の胸にも

たまらない 幸福感が。




「あーまだ実感ねぇな 家帰ったら
色々聞きたいことあるけどもう一度抱いちまうかも」


「やめてください それは本当に!
俺はじめてで、その 今すっごく背中痛いんですから




そ それに

俺ばっか私情話してるし」


「あー そうだな




じゃあ、そろそろ  教えてもいいか。





うん。 お前なら








どっちの俺も  愛してくれそうだから」









え? どういうことだろう





律は固まり、高野を見据えた

高野は勇気を振り絞り


口を開く。







「俺の職は 作家だ。







そして 俺の作家での名前は













織田











織田 政宗」










たぶん 今の俺の心情




俺が男だって聞かされたときの高野さんと一緒なんじゃないかな。





律はただ呆然と立ち尽くし

え? え?と繰り返した。













「信じられない って感じだな。

でもこういわれたからには思い当たる節はあったろ?
喫茶店で後ろに人が通るのがいやな癖がついたのは
パソコンでの作業のときに
売る前の原稿を読まれる不安があるからだ。

そして、作家は人間観察が大事。
そのほうがリアリティーを持たせることができるしな


今連載してる『ひととき』での雑誌の
『青空のワルツ』


あれに出てくるヒロインは




お前がモデルなんだぜ 律」


そこまで言われて
じわじわと実感がわいてきた。


高野政宗=織田政宗

高野政宗=織田政宗。



ああ 本当に?





うそだろ





こんな偶然…。





好きが ぼたぼたとあふれ出てきた。


高野  それだけの存在だって
愛の対象だったのに
まさか十年前から尊敬と憧れと狂おしい愛情を抱いた

『最愛』と 会えたなんて



その人から 『好き』といってもらえたなんて。








「っ……」





「なんだよ」



「………すみません うれしくて」




うれしすぎて。
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