セカコイ 長編

□小さな恋物語B
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くだらない

くだらない


きょーみない。


「まさむねくん まさむねくん
あそぼーよ」

女の子が嫌いだった。

あの 二つ結びとか ピシっとしたシャツが
親の愛が行き届いてるって感じで

なんていうんだっけ

うざい。

見せ付けててうざい。

俺のところなんて
夕飯あるのがめずらしいくらいなのに


つめたいご飯ばかりで
味もおなじで
怪我しても無視で
言葉で傷つけられる。

それでもお母さんのためになりたくて
家事ってものを試してみたけど

余計なことしないで

っていって、ため息をつかれたとき


俺は笑うのを

やめた。




だからかな
俺は

幼稚園に逃避した。



「政宗 この本はどうだ?」

そのほうがまだ楽だったからだ。

どうだ?

と聞いてきた男は

それは


それは

優しい男だった。
でかくて ちょっと怖いけど
お兄さんがいたらこんなんじゃないのかなって。
家にいてくれれば

どれだけ毎日が楽しいだろうって
思った
初めての相手だった。




ソイツ は幼稚園の先生だった。

俺にだけよく
特別にいろんなこと教えてくれる。
それにこいつ
俺が園児だからって馬鹿にしてない。

お前だから特別だ

ほかのやつにはわからないだろう

なんて

俺はどんどん 横澤 を好きになった

横澤がいると すぐに見つけられるし
気分もパッって明るくなるんだ。



でもほかの馬鹿どもは
やっぱり馬鹿で

「横澤のお兄ちゃんこわいよ」

「俺ほかのひときてほしー」

「こわいこわい」

と騒ぐのだった。

俺はお前らのほうが怖い。
何もしらないで
横澤を怖い怖いだなんて。




それが忘れられなくて



「…みんないなくなっちゃえばいいのに」

俺は一回だけ
横澤のひざでそう呟いたことがある

ほんとうになんとなく口にしただけだった

でも俺は

横澤に悪い気がして

「横澤以外」

とつけたした。

すると 横澤は俺の頭をなでてくれた


「いつかそうなればいいな」


あれ

あんた

先生なのにそんなこといっていいの。

やっぱり 横澤は面白い

お兄ちゃん

って呼んでもいいかな

なんか甘えたくて
そう聞こうとして

俺は暗くなった外を見ないで

時計を見る。

針が10 って文字をさしてて
あれが10時ってのはわかるけど
長い針が5をさしてる場合
なんだっけ?
10時5分だっけ?

「もう10時25分だな」

「え? 5 さしてるのに?」

「ああ 政宗 時計の読み方ってのはな」


横澤は絵にかくと
ひとつひとつ詳しく教えてくれた。
その表情には馬鹿にしたようすがなくて
むしろ
覚えたら横澤は
いまこの園内で時計よめるのお前だけだよ
とほめてくれた。

うれしい

うれしい


でも その話をしても
お母さんはこっちをみない

「…」



胸がズキズキする

お母さんお母さんって言ったら
優しく振り返って頭をなでてもらってるのに
なんで家はちがうんだろう。


くらべちゃ、いけないのかな

俺は幼稚園だけで
満足しなきゃいけないのかなあ。




そんな風に思って何日が過ぎた

ある日のことだった。


「新しい先生がきますよー
みんな
仲良くしてあげてくださいね」




「 なに  それ」


俺は幼稚園という居場所すら
失ってしまった。


仲良く?

そんなのするわけないだろ

ああ
まただ。

くだらない
きょーみない


俺は目を閉じた。



「あの
さがくん
だっけ 起きれる?
俺ね 今日から君らの先生だから」



優しい声
でも
俺の敵だ


俺は嫌々目を開いて
そいつを眺めて

なんだったっけ

ひどいことを言った

前の方が

横澤のほうがいい とかなんとか

だってそうだったんだ。
横澤がよかった。



はずだった。



なのになんでだろう
俺は その新しく入ってきた
おのでら って先生が
ほかのやつと一緒にいると
むかついて
横澤のこと考える暇がないくらいで
絵本も頭に入ってこなくて。

「政宗?」

横澤が しんぱい
して話かけてる
なにか言わなきゃっておもうけど
俺の頭は
あいつでいっぱい。


おのでら

おのでら りつ

思うだけならいえるけど
口にだすと

りちゅっていっちゃう

言いづらい名前だ むかつく

ほかの人にむけてる笑顔はやさしいのに
俺とかにだけ
ひきつった顔をしているのも
むかつく



もっと俺のほう見てほしかった

俺にも笑いかけてほしかった。


これって
なんなんだろ





そう思って横澤に相談したら
おまえはそいつのことが嫌いなんだ
って言われた。

なあんだ

そうか

でも
いままでこんな

いらいらしたことなかったのになあ。










俺は大人の視線にきづきやすいとおもう。
外で遊べ
園児らしくしろ

そんな目線




でも律は

優しく笑って言った


律はほかの大人とちがった

横澤ともちがった。







家族が居ない寂しさが
お母さんがこっちをみてくれない
むなしさが
律の笑顔でふっとんだ。
そんなまね、横澤にもできなかった



ああ
俺は


「りちゅ 好き」











この新しく入ってきた先生が好きなんだ
横澤はたぶん
俺の説明がいけなかったからまちがえて俺に教えちゃったんだろう

だってこの気持ち

好き以外の
なにものでもない


ほら

俺にすきって言われて
顔真っ赤にしてる先生の目も髪も鼻も口も
笑い方もしゃべり方も
動作の一つ一つが

きらいなわけ







ないだろ。
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