セカコイ イメージ曲ss

□明日、僕は君に会いに行く
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寂しさだけが今日もリアルで



会いに行ったら

泣いてしまう。








静寂な図書室で
ページをめくる音だけが響いてる。

それは俺のものだったり
ほかのひとのものだったり
ばらばらに ハーモニーを奏でている。

読みすすめるほど


作者はどんな意図があってこれを書いたんだろう

ああ このキャラはこれから
どうなってしまうんだろう



本好きたちは
フィクションの世界にのめりこんでいくのだ。

そしてのめりこんだあとにはもう
フィクションは

ノンフィクションへと姿をかえる。


でも今日はすこし違った。

フィクションはフィクションのままだった。


それは 俺が本に集中できていないせい。



息遣いが聞こえる。




帰りたくないなあ と呟いて
ため息。

ああ あなたは何を思ってそう呟いたんだろう。




先輩。



嵯峨先輩。







好きだと自覚したのは
好きになってしばらくしてからだった。


最初は憧れなだけなんじゃないかって
思った

思おうとした。

だって恋と気づいたって
それは切なく苦いだけだから。


でも もう



憧れだけじゃ埋めきれない。




ガタッ


先輩が立ち上がり
でていく。


ああ 帰っちゃうのかな

それともトイレとかかな。

俺は前者の答えをけした
だって先輩は本を愛してる 本を広げたまま帰りはしない。



「先輩」

俺はそう呟くけど
誰にも届かない。

先輩の読んでいた

本のタイトルは確認した。
次はこれを借りよう

むずかしくて読めないのも
自分には合わないのもあるけど


あなたはこのシーンをみたとき
何を思ったんだろうなって考えると

俺は甘い幸福の中に居る気分になるんだ。

本当なら
想像だけじゃなくて

どう思った? と聞いてみたいけれど
それは叶うはずはない。






だって 先輩は

俺の顔も名前も知らないだろうから。


これは俺の
ただの独りよがりな初恋。




「ちょっとー政宗 一緒に帰ろうっていったのにぃ」

「あー…ちょっとまって」

「まってって、十分待ったんだけど!」

「…」


可愛い彼女だった。
スカート丈が短くて目のやり場にこまるけど
頬がふにふにしてそうで
唇も目も鼻も愛されているように
綺麗。

本を鞄に突っ込んだと思うと
先輩は彼女のほうにゆっくりと進んでいった。

遠ざかる二人の背中


俺は最後まで見送らずに先輩が読んでいた本を探す。


ああ あった よかった

本当にいろんなジャンルを読んでいるんだなあと

あらすじをみて 微笑む。



甘い幸福の中


俺は先輩と本を読んでいる気持ちになってる


本当の先輩は

彼女と 家に行くらしい


寂しさだけが 今日もリアルで



俺は泣くシーンでもないページで
涙を落とし


図書室の椅子の上
深く頭を抱えた。



(今 会いに行ったら

あの人の前で  泣いてしまう)







好き 好き 好き





「ねえねえ 聞いた?」

いつものクラスメートのはしゃぐ声

その内容は

先輩のことだった。

どうやら


先輩は彼女と別れてしまったらしい
可愛いこだったのに なんでだろう。
でも嬉しかった
そして嬉しいと思う自分に嫌気がさし

またすぐに彼女が出来たと聞いたとき
これは罰なんだ と思った。


そんな期待と落ち込みを繰り返すように
先輩は付き合うのもはやければ
終わるのもはやかった。


くるもの拒まずなのか

いや

そんな風には見えない

じゃあ、どういう人なんだろう??


先輩が帰ってる

雨の中


俺はたぶんしちゃいけないことをした



「(うわあ…バレたらやばいよ)」



そう 帰りのあとをつけたのだ

電柱にかくれ
一人で帰る先輩の背を見る。


それだけで高鳴る心臓に

これは恋以外のなにものでもないんだと
気づかされて。


ふと
何か聞こえた。

にゃー

にゃー

猫の鳴き声だった。

俺はあとをつけてることも一瞬わすれ



と声を出しそうになった


あの猫ちゃん


まだ居たんだ。 俺は飼ってあげられないから
たまに餌とか傘とか置いて
時々生きてるか確認しにきてる。


周りはみんな素通り。


風で自転車が倒れてたって
おばあさんが一人困ってたって
泣いてる子供がいたって

ただの風景のように皆 通り過ぎていってしまう

俺はそれが悲しくて
悲しくて


にゃー…

猫の声が 途絶えた。

「…」


そして俺は驚きの光景をみた

先輩が

猫を抱えてた。


そして猫が入ってたダンボールを残し

先輩は帰っていく


俺は追うのも忘れ
ぼぅっと見送った。


ああ やっぱり






何もしらないけれど


あなたは







優しい人。








だから 困らせないようにしようって
思ってたんですよ
でも ばかな俺は

うっかり貴方の前で

好き

と言ってしまいました。

俺と 付き合いたいの


興味なさそうな 何を考えてるか分からない貴方の声。


ああ これは夢なんでしょうか
そうだ
明日冗談なのか確認しにいこう。

「あ あの 冗談 ですよね?」

「なんで?」

「…」


ああ どうしよう。

まだよくわからないことだらけだけど


俺と先輩は

付き合うことになりました。
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