短編

□廻る、廻る、廻る。 〜ループ、ループ、ループ!〜
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同じ時間、同じ曜日。

晴れの日もあれば雨の日もあるけれど、その人はいつも同じ座席に座っていた。





また居た、あの人。






電車の6両目、1番右のソファ、ホームから見ると奥の位置。

人込みでは個人なんて、あって無いようなモノだった。


あの人に気付くまでは、そうだった。




きっかけはもう忘れてしまった。



それは凄く些細で、たまたま隣に座った時になんだかいい匂いがしたからとか、髪がさらさらで綺麗だったからとか、何と無く落ち着いたからとか。


些細でしょうも無い事ばかりだったけれど、今更それを気にしても仕方無い。


その人に気付いてから、私は進んで隙あらばその人の近くに座った。


名前も知らなければ何処へ行くかも分からないその人は、いつも私より先に電車に乗っていて、私より後に降りている。


そしてたまに、友人と思しき人が一緒にいる。



その中の一人、黒髪でくせっ毛の女の人がその人を『玲ちゃん』と呼んでいた。




…玲。



その日から私はその人を『玲さん』と呼ぶ事にした。


呼ぶと言っても、心の声だけれど。



黒髪の人の件があってから、私は玲さんの周りの人も見るようになった。雑踏を視線で掻き分けて、個を見出だした。



いつ見ても目の下に濃い隈がある人、その隈の人と小競り合いをしてる割によく一緒にいる、仲が良いのか悪いのか分からないツリ目の人。


携帯の充電が切れたと言ってよく落ち込んでいる明るい茶髪で強いくせっ毛の人に、肩まで延びたクセの無い黒髪の人。


青みがかったぼさぼさ髪のやけに明るい人に、少し前髪が長くて声の小さい人に明るい茶色の短髪に男性口調が印象的な女の人。



隈の人とツリ目の人が、この前玲さんの事を『玲』と呼んでいたから、玲さんの名前はそれなんだろう。


それから私は、玲さんの事を玲さんと呼ぶようになった。こっちの方が自然だし。


まあこれもやっぱり、心の声なんだけれど。



玲さんの友人を見るようになってから私は、今度はその更に周りにも目を向けるようになった。


電車の中という狭い空間で、他人を認識しようとした。


やけに色白の黒髪の人、赤みの強いドレッドヘアーの人、グレイアッシュのぼさぼさ頭。

金髪で髪の短い人。

彼らより、頭一つか一つ半くらい小さい男の子。



私が見る限り、面子の変化はあまり無いように思う。


聞こえてくる話から察するに、この人達は玲さんの後輩らしかった。



友人達と接する時とは少し違う、からかうような…いや、まるでいびるような口調に、妙に納得した自分がいた。




嗚呼、相変わらずだ。
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