記念の物語

□大空を解き放つ、孤高の浮雲(本編)
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長き歴史の中で連綿と続くアサリ貝の頸木。
偽りの大空が紡ぐ悪夢。

それらに囚われてしまった大空の少女は、心の中で血の涙を流しながら泣き続ける。

望んだわけではないのに、その身に流れる血の鎖と紡がれた偽りの刃に苛まれながら―。

全てに染まり飲み込み包容する大空の宿命を持つがゆえに。


けれど重き宿命を背負う大空を守るべき天候達は、偽りの大空が作りだした甘美なる虚飾によって、守るべき大空を裏切ってしまう。

怒涛の攻撃の核になるべき嵐は、敵に向けるべきその攻撃を大空に向け―。

全てを洗い流す恵みとなるべき雨は、流した血を洗い流して戦いを清算するどころか、無用の諍いを生んで大空から新たな血を流させて―。

大空を明るく照らすべき晴は、日輪を曇らせ己の肉体で大空を傷つけ、ファミリーを斜陽させ―。

激しき一撃を秘めた雷は、大空に心寄せるもその幼さゆえに、ファミリーが襲い掛かった危機を引き受けきれずに避雷針とはなりえなくて―。

実態をつかめぬ幻影の霧は、その片割れが大空を庇ったがゆえに漆黒の死神によってその座を奪われ、真なる敵を惑わす事すら出来なくなった―。


けれど何者にもとらわれずに我が道をいく孤高の浮雲だけは―。





序章:雲と大空の取引





つい先ほどまで自分が暴力を振るっていた相手には見向きもせず、むしろ晴れ晴れとした顔で屋上から出て行く生徒達。
その中には少し前までなら自分とは所謂友人、あるいは仲間と呼び合える人達もいて。

そんな彼らの後姿を見ながら、ツナは倒れ伏したまま涙を流す。

一体、どれだけ自分の無実を訴え続けただろう。
一体、どれだけ信じて欲しいと叫び続けただろう。
一体、どれだけいつか真実に気づいてくれると信じ続けただろう。
一体、どれだけ以前のような関係に戻りたいと願い続けただろう。
一体、どれだけ・・・・・・。

今まで知ることのなかったマフィアの世界に関わりを持つようになってから、命がけで乗り越えてきた死闘の数々。
その中で、確かに築く事が出来ていた絆。

けれどそれは、たった1人の少女の偽りの前にあっけなく崩れ去った。


「もうだめなの?もう俺の声はみんなに届かないの?以前のように、みんなと俺は仲良く出来ないの?」


ツナのその問いに、答えてくれるものは誰もいない。
そっと目を閉じるツナ。

すると聞き覚えのある声がツナの耳に入ってきた。


「やぁ、綱吉。今日もまた随分と酷くやられたものだね。」


一体、いつの間にそこにいたのだろうか?
何を考えているのか決してツナには読ませない黒曜石のような切れ長の瞳が、倒れたツナを覗き込んでいた。


「とりあえず、まずは今日も聞かせてもらおうか。どうする?そろそろ僕の手を取る?それともまだあの馬鹿な草食動物達を信じて頑張ってみる?」


差し出された雲雀の手をジッとみるツナ。
ここ最近では、もはや定番の恒例行事となったものだ。

差し出した手をジッと見つめるツナに、雲雀はそれ以上何も言わない。

けれどそれは、当然のこと。
なぜならあの時、雲雀は言ったのだ。
最終判断は、自分に任せると・・・。
差し出した自分の手を取るも取らないも、ツナ自身の意思に任せると。





    
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