パラレル小部屋2
□出逢い
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ーーこの世に生ける全ての者たちに注ぐ光と影
ただ唯一無二の存在に出会い、その者をこの身を差し出してでも守り抜きたいと思う感情が生まれた時、人は新しいひと筋の光を見つけ、生きる糧を見つける
暖かい光に照らされることのなかった、閉ざされた日影のように冷えた俺の心を、暖かな灯のように照らしたあの小さかった光、存在を、いつからだろうか
こんなにも誰よりも愛しく思うようになったのは…ーー
夜もふけて
歌舞伎座の広間の座敷で、高野は小説家の角遼一と酒を酌み交わしていた
「いやあ、本当になんとお礼をいっていいか…長年患っていた病が先生に診てもらうようになってからたちどころによくなって…以前は疲れやすく仕事をしては床につく、の繰り返しだったのが、本当なんと礼をいっていいやら」
「医者として当然の事をしたまでです」
「まだ年もお若いというのに対した腕でいらっしゃる…先生はまだ一人身ですか?是非ともうちの娘など…」
「いえ、私くしのような若輩者、妻を娶るにはまだまだですので…」
汲まれた酒をグイと煽った高野は角の空になった杯に酒を注いだ
「何をおっしゃいます!先生のような姿見も医者としての腕も素晴らしい方が一人身であることが勿体無いよ…いやぁ、具合がよくなってから酒が余計旨く感じてしまっていいことづくめです」
「角先生、酒の飲みすぎは病を悪化させてしまいますので…」
「わかっています、先生のおっしゃられた量をわきまえて飲んでおりますよ」
「良かった、酒は百薬の長という言葉があるように適量であれば良いです。我慢は心労にも繋がりますし。適量、は守って下さいね?先生の書かれた書物を楽しみにしている者は大勢いるので…私を含めて」
「ええ、分かっています、私もいつまでもこうやって楽しく酒を酌み交わしていたいですから」
はは、と互いに談笑していると襖の外から何やら騒がしい声や何かをひっくり返した大きな音が聞こえてきた
「妙に外が騒がしいのですが…何かあったのでしょうか?」
「さぁ…今日は何故だか賑やかだ、」
そう言って高野は襖を開け外を覗く
目の前を亜麻色の髪をした自分よりも一回り以上小さな身体、乱れた着物の胸元を掴み、すごい勢いで横切っていく
寸での所でその小柄な身体とぶつかりそうになったがひらりとかわし、廊下の奥へと走り去って行った
それを同じ方向から店主が血相をかいて追いかけてきた