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□笑顔
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守りたい。
たった一人の肉親を。
(僕のこの手で)
「千鶴」
花のようなかわいらしい笑顔に、呼びかけた。
「薫」
甘い声で、僕の名前を呼ぶ。
かつてあった日常が、ようやく帰ってきた。
今日は何をしようか?
今日はいつ帰る?
今日は一緒にいられる?
人間によってかき消された炎の日々は、平和という形で終焉を迎えた。
もう、千鶴がいれば何もいらない。
僕も、不幸なんかじゃない。
千鶴を笑顔にできるのは、この世でただ一人。
僕だけだ。
千鶴を幸せにできるのも、僕だけ。
千鶴のそばにいて笑っていいのも僕だけで、千鶴の笑顔をもらっていいのも僕だけ。
狂気でも、構わない。
だって、僕は幸せだもの。
「薫」
密の声が、洗練した空気に響いた。
僕は、この倖せ以外いらない。
この笑顔がそばにあれば、望むものなんて何もない。
笑顔
(閉じ込めたしまいたい)
―fin―