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□夏風に
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とある夏の日。屯所の近くで夏祭りが開かれていた。例年より猛暑が続き、隊士たちの士気は下がりつつある。そんな中、新撰組幹部の話し合いで地元の夏祭りに参加してみることになった。
「夏祭りねぇ…。面白いんですか?」
話し合いの後、つまらなさそうに沖田が問いかけた。そんな彼に土方が怪訝な様子で応える。
「なんだ総司。行きたくねぇのか。」
「そんな訳じゃないですけど。ただ、珍しいなあって思っただけですよ。」
「なら別にいいじゃねぇか。最近ゴタゴタして休みらしい休みはなかったからな。たまにはこういうのも必要だろう。」
二人の会話を聞いていた永倉は楽しげに口を開く。
「夏祭りとか久しぶりだなあ。なあ、佐之?」
「だな。美味い酒でも探しに行くか。」
「ちょっと佐之さん、新八さん!せっかくの夏祭りなんだからもっと違う物想像しようぜ!」
「違う物ってなんだよ、平助?」
「もっとこうさ…。あるじゃん、なんか。」
「なんかってなんだよ。っていうかお前、ヤケに浮かれてねぇか。」
「べ、別に浮かれてなんかねぇよ!」
「それにしては口角が少し上がっているように見えるが。」
「一く
ん!」
部屋の中に笑いが起こる。笑いがおさまった頃合いを見て、土方は言った。
「まあ、それぞれ思うところがあるみてぇだが…。今日はこれで解散だ。」
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「夏祭りかあ…。千鶴、喜ぶかな。」
皆と別れて、今平助は一人外で星空を見上げていた。心に浮かぶのは最近付き合いだした千鶴の姿だった。土方の言ったとおり戦やら何やらがあって、二人はデートというものをしたことがなかった。
デートとは何か?そんな無粋な質問はしてはいけない。ともかくも、こうして期待をはらんだ夜が明けていったのである。
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翌日の夕方。夏祭りに出かけることになった。千鶴と平助……ではなく新撰組幹部で。
「お、千鶴。あそこに美味そうなの売ってるぜ。」
「千鶴ちゃん。あっちに面白そうなものがあるみたいだよ。」
あちこち千鶴は連れ回されている。そのことに平助は不満を抱いていた。
(なんで皆がいるんだよ…)
彼はこっそり溜め息をついた。面白くない。本音を言えば、平助は二人で来たかったのだ。だが、皆で来ることができたことを喜んでいる千
鶴を見て、結局何も言うことができなかった。
(あ、佐之さん馴れ馴れしく触りすぎだっての!俺の千鶴なのに!)
かといって、一緒に祭りを楽しめるほど、平助は大人じゃなかった。千鶴は沖田たちと話していてこちらに気づく気配はない。平助は心を落ち着かせるために、少しその場を離れることにした。
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(あー、なんか星が遠いなあ)
千鶴と付き合いだしたのは最近のことだった。千鶴が新撰組に来て、一緒に日々を過ごすうちにだんだん千鶴のことが気になるようになって。気がついたら本気で千鶴に惚れていた。しっかりしてるかと思ったら意外とそうでもなくて、芯が強くて優しくて、笑うとすごく可愛くて…。
「俺が守りたいって…思ったんだよな…。」
「何を守りたいの?」
「それは……って、千鶴!?」
ポツリと独り言を呟いたら、いつの間にか平助の隣には千鶴がいた。
「なんでお前がここにいんだよ!?」
「平助くんがこっちに来るの見えたから、追いかけてきたの。」
「…ったく、一人じゃ危ないだろ。皆は?」
「ううん、私一人。」
「お前なあ……。」
「ごめん…。」
身の危険を考えていない千鶴に平助が注意すると、彼女は彼に心配をかけたことで落ち込んでしまった。そんな様子を見て、平助は千鶴の頭を優しく撫でた。
「まあ、もう来ちゃったもんはしょうがないし。そんなに気にすんな。」
「平助くん…!」
「ただし、次からもっと気を付けろよな。」
「うん!」
元気を取り戻した千鶴は平助の隣で星空を見上げた。
「星……綺麗だね。」
「ああ。でも、さっきも綺麗だったけど、千鶴と見るともっと綺麗に見えるよ。」
知らずに、千鶴の頬は赤く染まった。話題を変えるように、平助に言葉を投げる。
「平助くんがさっき言ってた守りたいものって何?」
「な、なんだよ急に。」
「ね、なあに?」
「…………。」
「……平助くん。」
はあっと平助は溜め息をもらした。このまま黙っていても、千鶴はひいてくれそうにない。
「お前だよ。」
「え?」
「だから、お前。俺、千鶴のことだけはちゃんと守りたいんだ。」
「……平助くん。」
「…なんだよ?」
「ありがとう。」
はにかむように千鶴は笑った。