退屈。

□06
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「もうすぐ期末だが、契約は覚えているね全理」
『契約内容は頭に入っています。それよりも次も中間のような無粋な真似をされるとさすがに俺も子供として恥ずかしいので、徹底的に痛めつけるのでそちらも覚えておくように』

爽やかな朝の食卓で向かい合う二人の親子。
ホテルのような朝食だが、二人の口から出る言葉はまるで刺のように互いが互いを突き刺そうとしている。
いつもの光景で、いつものことながら決着はつかない。
食べ終えて席を立つ全理と入れ替わるように、学秀がダイニングに現れた。

「兄さん、いつまでE組で遊ぶつもりですか?貴方と奴らは違う世界の人間だというのが分からないのか」
『……俺からすれば、A組にいて楽しそうにしているお前が分からない』

そう言い残し、家を出る全理を学秀は悔しそうな表情で見つめる。
父親が「浅野くん」と呼びかける。そう呼ぶということは、すでに二人は理事長と生徒の間柄だ。

「期末では君がリーダーとなってA組の成績底上げをしなさい。あと、君にはそろそろあの子の目を覚まさせてもらわないとね」
「…契約内容は見ましたが、まさかあなたが了承するとは思いませんでしたよ理事長。何よりも兄さんの教育に心酔していたあなたがね」

二人が交わした契約内容のうち、制約の1つが全理の成績首位キープだ。これに関しては学秀もいる上に他の生徒もいる、しかもE組の劣悪な環境でキープなど無理だろうと踏んだ上での判断だったが、自分の息子の力を見くびっていたようで、予想に反して全理は中間でも全国模試でも学秀を押さえて1位をとっていた。

学秀にとって超えなければならない人間は2人いる。ひとりは目の前にいる父親。もうひとりは、自分の半身であり兄である全理だ。
子供の頃から支配を教えられてきたものの、全理は一向にそれに興味を示さなかった。
むしろ、威厳や栄光にたかってくる奴らを鬱陶しそうに払い、進んで一人になりたがっていた。そんな兄が理解できないと同時に、孤高であるその在り方に憧れを抱いた。
どれだけ勉強しようと追いつかない。追いついたと思えばまた引き離されるレースに学秀は全理を崇拝していた。

しかし、そんな兄はあっさりとA組を捨て、E組へと落ちた。しかし成績は首位をキープしたまま。そんな矛盾と、低レベルな人間が崇拝している兄の側に群がっていることが腹立たしくて仕方なかった。

「分かりました。僕が兄さんの相応しい場所へ、戻してあげますよ」







殺せんせーの提案により期末へのモチベーションが格段に上がったことにより、普段よりも勉強ムードな中、全理は一人、テストに無関係な本を開いていた。

「にゅや!全理くん!また君は勉強しないで…」
『期末の範囲程度、今更しなくてもいい』
「むむむ……では、先生が特別に問題を作りましょう。全理くんだけのスペシャル問題ですよ。解けますかねえ〜」

しゅばばば、と目にも止まらぬ速さで出来上がった問題を手に取り、ざっと目を通した全理は興味深さを瞳ににじませた。

『……あんたは本当に面白い問題をつくるな、殺せんせー』

渚が興味本位で覗き込むと、もはや何語で書かれているのかも分からない言葉が羅列されていた。

「な、なにそれ…」
『少数民族の言語で書かれた問題だ』

渚に答えながらもペンを持った手を止めない全理は書き終わった用紙を返した。

「ムムムムム……正解です」
「すげー…」

周りで見ていた者たちも思わず感心してしまった。
そこからは殺せんせーもムキになり、問題をつくっては解いての合戦になってしまった。

「珍し…全理が楽しそうじゃん」
「え…楽しんでるんだあれ…」
「あいつ、ずっと本読んでるでしょ?あれ、あいつの興味がもう勉強にしかないんだよ。しかもだいぶレベル高いやつね。あいつ一度見たら理解するし忘れないし、専門書も読みあさってるし……下手に頭がいいとそういうところ損だよね」

そう語るカルマの横顔を覗き見ると、優しい目で全理を見つめていた。
いけないものを見てしまったような気がして、渚はパッと目をそらす。
「渚」と磯貝に呼び止められ、渚たちはまだ戦っている彼らをそのままに、図書館へと向かった。

「……ねえ、いつまでやるの?」
「ハア!ハア!や、やりますね全理くん…」
『なんだ、もう終わりか』

ざっと100枚はあろう用紙を手に殺せんせーは息が絶え絶えだ。
結局一問も解けない、なんてことにはできなかった。良くて、すこし考えるのに時間がかかった、という程度だろう。それも分単位だったが。

「全理〜、帰って俺にも勉強教えてよ」
『……ああ、そうだな。今日はこのくらいにしておこう』
「では、明日もさらに難しい問題を考えておくことにします」

闘志をあらわにする殺せんせーに、カルマはやれやれと肩をすくめるが、全理はそんな殺せんせーに口もとを緩ませた。

『楽しみにしてるよ殺せんせー』





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