パンドラ
□お買いもの
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≪お買いもの≫
雲一つない晴天の空の下、男と少年が歩いていた。左右には真ん中の道路に面して住宅が立ち並び、道の脇に寄せられた雪が太陽の熱で溶け、小さい水たまりになっていた。
「今日は何を買おうか?」
金髪の少年が、黒髪の男に聞く。身長差でやや見上げる形になる。
「もうだいぶ食糧がなくなってきてるからな、少し買いだめしておこう」
男が答えると、
「アリスにも肉買っていかないとな」
少年が水たまりをよけながら笑顔で言った。
住宅街をしばらく歩き続け、入り組んだ路地を抜けると、土の道から一転して石畳によって舗装された広場に出た。そこにはたくさんの屋台が立ち並び、さまざまな日用品や食料品が売られていた。時折、肉や魚を焼いた香ばしい香りが二人の鼻に届いた。
「今日も盛況してるな」
黒髪の男が辺りを見回してそう言うと、
「ごめんギル!俺ちょっと野暮用思い出したっ」
少年が男に向かって言った。男が少年の方に振り向いたときには二人の間にはだいぶ距離があった。
「おいオズ!」
すぐさまギルと呼ばれた男が追いかけようとするが、少年に身振りで大丈夫だと示され足を止めた。少年の姿は人ごみにまぎれてあっという間に見えなくなった。
「まったく・・・」
ギルは困ったような、悲しいような複雑な表情を浮かべると、手近な屋台に近づき値段の交渉を始めた。
「遅いぞ」
「ごめんギル、交渉にとまどっちゃって」
屋台街から少し離れた路地に二人はいた。迷子や何かあった時のために落ちあえるように以前から示し合わせていた場所だった。
肩で息をするオズにギルが懐からだしたハンカチで額を拭いてやる。そうすることで少し表情が和らぐ。
「ところで、さっきは何をそんなに急いでいたんだ?」
「うん、これ」
オズが軽い金属音と共にポケットから取り出したのは、青い石がついた銀のネックレスだった。太陽の光に反射して青い石がより一層輝きを増している。
「ネックレス?」
「うん、ギルに似合うと思って、前から取っておいてもらってたんだ」
屈託のない笑顔を向けるオズに、
「ありがとう、付けさせてもらう」
「うん、つけてつけて!」
急かすオズからネックレスを受け取り、腕を後ろに回してホックをつけると、あつらえたようにきれいに円状に収まった。
「すごい似合うよギル!」
「そ、そうか?」
ネックレスはギルの黒髪によく映えて、男の美貌をより一層に際立たせているように見えた。
「俺といる時はできるだけつけてね」
「ああ」
男より頭一つ分あるオズをギルはそっと抱きしめた。
あとがき
ギルは青い宝石が似合うだろうなー、と思って書いたものです。駄文失礼しました。