RE-TURN
□行き先なんて歩いていればそのうち決まる
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* * *(土方視点)
今日はいつになく平和な見廻りだと思っていたら、小一時間前に姿を消していた総悟がとんでもない拾いモンをしてきやがった。
今のご時世、よっぽどのことでもない限り、満身創痍になるようなのはいねぇ。
大抵、誰しも逃げ方ってヤツを心得ているから、俺たち真選組でもねぇかぎりは大怪我すんのは事故ぐらいだ。
だけど、そいつは明らかに刀傷やら銃弾といった傷ばかりで、致命傷ではないとはいえ、大量の失血をしていた。
普通の相手ならまず間違いなく病院へ向かわせる。
「病院は駄目だってんでここにつれてきやしたが」
「駄目も何もねぇだろ、さっさと医者ァ連れてこい!」
山崎に医者を呼ばせ、治療の間に話を聞く。
「あの辺で仕事しているって話は聞いていたんで、近くまで言ったら、路地裏から妙な男が飛び出してきやしてね。
化け物がいやがるってんで行ってみたら、いきなり撃ってきやして。
しばらくして、発砲もなくなったから近づいてみたら、こう構えたままの美桜さんが気絶してたんでさァ」
こう、と両腕を伸ばして、短銃を構えるフリをする総悟。
その情景を思い浮かべて煙草を咥えたまま嘆息した。
「何してやがんだ、あいつァ」
「美桜は口堅いですからねェ、俺らには死んでもいわないとおもいますぜィ」
「だろうな」
治療も終わり、絶対安静ということで状況も考えて、見張りをつけて美桜を寝かせておく。
朝になって目が覚めているようなら聞き出してやると決めて、俺も床についた。
騒動は深夜に起きた。
短銃の音で目を覚ます。
「もう、嫌になるわね!
私が行くって言ったら、絶対に行くのよ!!」
美桜の部屋から聞こえる元気な声で刀を手にして、現場へと向かう。
そこでは美桜を前に震えながら抜刀している見張りの隊士が一人いた。
「あ、土方さん〜っ」
「うっせーな、夜中に騒ぐんじゃねぇよ」
部屋の中を覗けば夜着のまま、部屋に置いておいた俺の予備の刀を構えている女が一人いる。
この気迫を前に抜刀していられるだけ、見張りは大した男らしい。
「おう、ここは俺が預かる。
お前はもどって休め」
「ああああ、あの……っ」
「ごくろうだった」
その場を後にする隊士を振り返らずに俺も抜刀し、美桜へと向き合う。
こうして対峙するのは初めてだがゾクゾクするほどの強さってやつを感じる。
もともとできるんじゃねぇかと思っていたが、こいつは相当だ。
「やる気なら、怪我人だろうが病人だろうが容赦しねぇぜ、美桜」
「土方……?」
俺だと認識したとたんにへなへなと力を抜いて、その場に膝をつく。
「銀ちゃんを呼んできて」
「!?」
「私、言わなきゃいけないことがあるの。
出してくれないなら、呼んできて」
俺がいることで出て行くのは断念したらしい。
鞘へと収め、部屋へ入ろうとした俺の一歩の前、美桜が部屋の奥へと逃げる。
「お、お願いだから、部屋に、入ってこないで……っ。
わけ、は明日話すから、銀ちゃんを呼んでっ」
荒く息を吐き出しつつも、警戒心はむき出しで。
前々からここで警戒はしていても、表に出すコトなんてなかったということに気が付く。
「あいつなら、明日呼んでやるよ。
それより」
「銀ちゃんを呼んでっ!」
悲鳴のように繰り返し、ビクビクと部屋の隅で縮こまる姿は、明らかに怯えている。
「美桜さん、こんな夜中になにしてんですかィ、話なら明日でも」
「入ってこないでっ!
……お願い、だから……っ」
総悟が気にせず一歩を踏み出す。
一歩ごとに美桜の緊張が高まり。
「お、おい、総悟」
部屋の半分まで来ると、美桜はくたりと意識を失った。
総悟も足を止める。
「山崎、万事屋まで行って、ヤツ引っ張ってこい」
「えええっ、副長、いくらなんでもこんな夜中じゃ旦那だって眠って」
「さっさと行ってこい!」
「はいぃぃぃっ!」
山崎を送り出している間、総悟は一歩も動かない。
「土方さん」
「なんだ」
「美桜さん、俺らと別れてから……何があったんですかィ?」
山崎に調べさせてはいるが、宙にいたということと快援隊という壁が邪魔をして、調査は困難を極めているらしい。
「知らねェよ」
仮に知っていたとしても、美桜が話さない限りは言わねェがな。
近づいて、小さく丸まっている美桜を抱き上げて、布団へと横たわらせる。
小さく震えたままの姿からは、いつもの自由奔放な姿を想像できない。
「これじゃあまるで俺らを怖がって」
「違ェよ」
目元に残る涙を指で救う。
こいつが怖がっているのは、部屋に入る一歩、だった。