真選組滞在記

□何事も〜が丁度よい(4)
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 舞い落ちる桜が辺りを薄紅色に染め上げて、平和を演出する。
 偽りの平和に包まれて、私は遠い夢を見る。

「アルト、知らない人にはついて行っちゃいけないって言われてないの?」

 隣にいるのは眼鏡をかけた少年へ視線を戻す。
 彼は名前を志村新八という。

「ただのチンピラだったらついていきません。
 逃げた方が早いから」

 辺りでは宴会が繰り広げられ、真選組の者達と友人たちが楽しんでいる。

「ただね、力の強い相手に無駄に抵抗すると、怪我をさせられてしまうの。
 そうすると、父が暴走するから、ね」
「ね、じゃないよ。
 そこ可愛くいっても駄目だから」
「父の場合、下手すると他族使って全部排除しかねないです」
「……ええもうその辺はつっこみませんよ。
 長そうですから」
「ありがとうございます、新八さん」

 小さく微笑みを返すと、彼は僅かに頬を染めた。

「それで、その後はもちろん真選組に無事に助けられたんですよね」

 救われなければこの昔話自体が成立しない。
 だが、小さく首を振る。

「私が自分で出ていったのは真選組を巻き込まないためです。
 来させるわけないじゃないですか」
「いや、だって、相手は天人を排除しようとしてる連中でしょ」
「新八さん、力に対抗するにはね、力があればいいの。
 彼らを躊躇わせる力があれば、ね」

 風に舞い散る桜の間から、空へともう一度視線を移す。

「何したんですか?」
「しようと、したんですけど。
 思いがけず、親切な方にお会いしまして」
「え?」
「まさか助けていただけるとは思わなかったんですけど、ね」

 目を閉じれば、その人の姿を思い出せる。

「アルト?」

 どかりと両隣に人の座る気配がして、地面が揺れたような気がして目を開ける。

「銀さん、土方さん。
 ……お酒が足りませんか?」

 左隣に座った銀髪の男は肩にしなだれかかるように寄りかかってくる。

「新八の相手なんかしてないで、お兄さんの相手してくれよ」

 その手を払いのけてくれる土方は不機嫌そうにこめかみを引きつらせている。

「こら、汚い手で触るんじゃねぇっ。
 アルトも、ちっとは嫌がれっ」

 何を言っているのか。

「そういわれましても」
「っ!
 べ、別にアルトを怒ったワケじゃ……っ」
「あー土方さんがアルトを泣かしてるーっ」
「っ!?」
「誰も泣かされてません。
 沖田さん、いい加減なことを言わないでください」
「無理しないでお兄ちゃんに甘えていいんだよ、アルト」
「誰が兄ですか」
「土方コノヤローのことなんざほうって、俺と叩いてかぶってじゃんけんぽんでも」
「だめアルヨ。
 おまえにポンされたら、アルトが死んじゃうアルっ」

 飛びついてきた神楽を抱き留めきれずに押し倒され、打った頭を抑える。

「いたた」
「おい、チャイナ。
 アルトを放しやがれ」
「ごめんヨ、アルト。
 でも、私、定春一号の生まれ変わりのアルトのコト、本当に大切に思ってるヨ。
 あんなサド男には絶対に渡さないアル」
「きゃっ、ちょ、神楽ちゃんっ。
 そ、み、耳はだめぇ……っ」

 耳を捕まれそうになり、慌てて強く目を閉じる。
 この子の前だとどうにも耐えるのが苦手だ。
 普段なら、どうとでもいなせるのに。

「神楽ー、アルトは定春の生まれ変わりじゃねぇって何度言ったらわかるんだ」

 私の上から銀時の手で神楽を除かれ、土方にそっと抱き起こされる。

「大丈夫か?」
「ん、ありがとうございます」

 軽く頭を振り、それから真っ直ぐに見つめて礼を言う。
 彼はどこか戸惑うように私を見つめ、それから、自分に寄りかからせるように私を座り直させた。

「今日は帰るのか?」
「ええ、明日も仕事がありますから」

 ぐいと腕を引っ張られ、銀時の胸に納められる。

「アルトは仕事しすぎだって。
 今夜はうちに泊まって、明日は銀さんとのんびりしねぇ?」

 銀時の囁きは少し、揺さぶられる。
 この人がいると狙われにくいのは確かだ。
 だから、父も嫌々ながらに近づくことを許している。

「あんたの好きそうな甘味屋見つけたんだ。
 一緒に行こうぜ」
「だから仕事が」
「大丈夫だって。
 あんたなら、なんとかなんだろ」
「なんとかって」
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