真選組滞在記

□何事も〜が丁度よい(2)
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 真選組滞在二日目。

 大勢の気合いの声で目を覚ました。
 普段とは違う目覚めに少し気分が高揚する。
 こんな風に過ごすのは、自宅以外で迎える朝というのはこうも興奮するものなのだろうか。

 山崎に持ってきてもらった着替えの中から、あまり目立たなそうな紺のパンツスーツに着替える。
 同色のキャスケット帽で耳を隠し。

「そんなの被らなくてもいいんですぜィ」

 いつのまに部屋へ入ってきていたのか、沖田がまたも耳をひっつかんだ。

「、っっっ」

 油断していたから物凄く痛い。
 耳を引っ張られて起きたことなら何度かあったが、最近はなかったというのに。
 これだから、自宅以外で過ごすのは。

 ぎっと睨みつけると、やっと離してくれる。

「いい目でさァ」

 うっとりと言われて、ぞわぞわと背筋が寒くなる。
 こっちは半端でなく痛いのを堪えているのに、この男どういう神経をしているのだ。
 それとも、そう言う趣味なのか。

「沖田さん」
「おはようごぜぇます、お嬢さん。
 俺と一緒にデートでもどうです」
「お断りします」
「即答ですかィ」
「人の耳を遠慮無く引っ張るような男は信用できませんから」
「……痛いんですかィ?
 俺ァ何も言わないからてっきり痛くないのかと思ってやしたがねィ」

 よく言う。

「あんたは表情がなさすぎでさァ。
 もう少しぐらい愛想があってもバチはあたりやせんぜ」
「愛想なんか振りまいてどうなるっていうんですか。
 そんなもので助けてもらえるってんなら、いくらだって振りまいてあげますよ」

 だがしかし、と強く沖田を睨みつける。

「私の過去の経験から言って、愛想を振りまいてもろくなコトになりません」

 部屋の入り口にいる沖田を押しやり、なんとか外へと出る。
 背中に声がかかる。

「少なくとも俺に愛想振りまいてくれりゃァ、あんたを助けてやってもいいんですぜ」
「ふっ、ご冗談を」

 どちらでもあり、どちらでもないから知っていることが一つだけある。

「あなたたちだって天人は嫌いでしょう?
 私だって大っ嫌いなの。
 そして、あなた達も嫌いだわ」

 見せ物を見るように人を見る男の前で、深く帽子を被り直す。
 歩き出そうとした視線の先、土方が咥え煙草で立っている。

「自分の身は自分で守る。
 誰かに護られるなんて真っ平ゴメンだわ」

 守ってくれることなど無かった。
 昔から、生まれたときから自分には敵である者と敵以外である者しかいなくて、味方なんて一人もいなかった。

「あなたたちはせいぜいちっぽけな治安でも守っていることね」

 土方を通り過ぎ、昨日教わっていた食堂へと向かう。
 何をするにも体力をつけないといけない。

 昨日やってもらったようにカウンターで膳を受け取り、部屋の隅、入り口近くへと座る。
 すぐに逃げやすい位置に座るのはクセのようなものだ。

 膳には純和風の食卓があって、ご飯と味噌汁と焼き魚を急いで食べ、それからケータイを取り出す。
 と、先に着信があった。
 少し考えてから通話ボタンを押す。

「おはよ〜、アルト」
「おはようございます、オジサマ。
 朝っぱらからの電話がくだらない用なら切りますよ」
「夕べはよく眠れたかぃ。
 外泊は初めてだろぅ」

 そう思うのなら外泊させないで欲しい。
 敵のただ中でよく眠れるほど、私は太い神経を持っていない。

「オジサマの手腕は認めておりますけどね、私には護衛なんていりません」
「せいぜいこき使ってやってくれぃ。
 おいちゃんはアルトが無事ならそれでいい」

 無事なら?
 どの口がそれをいうのか。

「……オジサマ」
「そうだ、栗子が会いたがってたぞ〜」
「忙しいので会えませんと言っておいてください。
 それから、絶対に私の居場所を教えないで」
「別にいいじゃねぇか」
「私はね、進んで自分を苛める人に会いたがるほど暇じゃないんです」
「栗子は苛めてるわけじゃないだろ〜。
 ただ、おまえさんの」
「自分の身が可愛いなら教えるなよ、クソジジイ。
 ないことないこと奥さんに言ってやるから」

 返答も聞かずに通話を終える。
 ふぅと一息つくと、目の前でもふぅと煙を吐き出す奴がいた。

「煙草は好きません」
「そうかよ」
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