RE-TURN

□愛おしい場所
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 風呂上がり、手拭いを首にかけたまま、縁側で月を肴に杯を傾ける。

 居候の家には未成年がいるので、中身は水だ。
 ようは雰囲気がほしいだけともいう。

 昼間は何が何でも洋装にしているが(でなければ戦いにくいので)、夜ともなれば、薄橙の浴衣をゆるめに着ているだけなので、風通しは良すぎるほどだ。

 夜空には星を隠す煌々とした光放つ宇宙艇が航行しているが、月が見えないこともない。
 少し前までいた場所だけれど、今この地上にいることは悲しさよりも嬉しさを沸き起こらせる。

 ここ以上に愛しい場所など。

「銀ちゃん?」
「なんだよ」

 唐突に背後からべったりと抱きついてきた気配に、落胆と苦笑を投げる。

「また勝手に来て。
 妙さんに怒られるよ」
「じゃあおまえがうちに来い」
「冗談」
「じゃあ来て下さい」

 やけに低姿勢だなと顔を見ると、平静を装ってはいるが引きつった笑い顔だ。
 この表情を過去幾度となく見ているだけに、私はくすりと苦笑する。
 銀時は隠しているけど、彼はオカルト系にてんで弱いのだ。

「また怖い話でも聞いたの?」
「ち、違ぇよ。
 神楽が寂しがっててだなぁっ」
「はいはい、じゃあ寝付くまでならいてあげる」

 部屋に戻り、壁のハンガーに掛けておいたロングコートを手にする。

「……銀ちゃん、着れないんだけど」

 後ろから抱きしめてくる銀時に呆れた息を吐く。

「それ、やめねぇ?」

 それ、と指すのは私の手にした赤いロングコート。

「これがないと、外に出れないよ」
「別にそこまで寒くねぇだろーよ」
「寒くはないけど」

 これがないと不安。

 少し戸惑った気配の後で、銀時はくるりと私の身体を回転させた。
 胸に私の顔を押しつけさせて、よしよしと頭を撫でる。

「しかたねぇから、今日は俺がそばで寝てやるよ」
「妙さんに怒られても知らないよ」
「そんときゃそんときだ」

 一人用の布団に二人で寄り添い、銀時の腕を枕に眠るのは、いつ以来だろう。

 何年たっても、ここがどこよりも愛しい場所だというのは変わらない。
 ここ以上に愛しい場所など、なくていい。
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