RE-TURN

□行き先なんて歩いていればそのうち決まる
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 目が覚めて、一番最初に安心することは隣に誰もいないこと。
 知らない間に隣に温もりがあることが、今の私は何よりも怖い。
 それは宙を旅している間に出来てしまった習慣のようなものだ。
 心安らげる場所なんて、どこにもなかった。

 布団から起き上がり、枕元の上着を羽織って、部屋を出る。
 寝ぼけ眼をこすりながら、洗面所へ向かって顔を洗い、部屋へと戻る。

「バイトしねぇか、美桜」

 何か人の気配はしたけれど、放っておいて隣の部屋へと入る。

「おい」
「着替える。
 覗いたら、出て行く」

 彼はその一言で大人しくなり、隣の部屋へと私を見送ってくれる。
 出て行く、の一言は相当堪えるらしいが、いい加減私の行く宛がないことぐらい気が付けばいいと思う。

 上着を脱ぎ、夜着を脱ぎ、宙を旅して手に入れた異国の服を着込み、武器類を装備し、その上からまた上着を着る。
 坂本さんにもらったこれは、意外と通気性も良いし、保温性も良いので重宝している。

「今日は全国的に夏晴れらしいですよ、美桜さん」
「ふぅん」

 襖を開けて、出てきた私の目の前で銀時はTVをつけて、寝転がって、ジャンプを読んでいる。

「今日はちょっと寒いところに行くから、丁度良いかも」
「どこ」
「さる御屋敷の貯蔵庫」
「……いったい何の仕事だよ」
「快援隊絡みでね、明かせないの。
 守秘義務守っとかないと」

 あからさまに不機嫌オーラを漂わせる男を置いて、美桜は台所へと向かう。
 そこでは忙しなく新ちゃん(妙さんのが移った)が朝食の準備をしている。
 材料はほとんど私が買ってきたものだ。
 驚いたことに、これだけの道場に住んでいて、この家にはほとんど金がない。
 妙さんがホステスで稼いでいるらしいが、銀時のトコで働いているこの少年に収入があるわけもなく、今のところ私が快援隊から借りている金で生活しているようなものだ。
 坂本さんは最初から私のものだと言っていたがそんなはずはない。

「おはよう、新ちゃん。
 私、今日は遅くなるから」
「おはようございます、美桜さん。
 もうすぐ朝食出来るんで、居間で待っててくださいね」

 机に並べられた漬け物を摘み、焼きたてのハンバーグを口へと放り込む。

「ごちそうさま」
「え!?
 ちょ、あ……っ」
「いやぁ、料理上手だね。
 良いお嫁さんになれるよ〜」

 ひらひらと手を振って台所を出て、もう一度部屋へと戻る。
 そこにいるだろうと部屋を覗いた瞬間、首を押さえられ、部屋へと引きずり込まれた。

 もちろん、この家でそんな不埒な真似をするような男は一人しかいないだろうが、朝なのでどうしても警戒が先に立つ。

「触るなっ」

 相手を確かめずに放つ掌撃を避けられ、出来た隙から抜け出し、相手に向かって短銃を構える。
 避けたとはいっても死角のもう一撃は避けられなかったのだろう。
 踞る銀時を目の前に、はぁと息を吐く。

「いきなり何するんですか、銀ちゃん〜?」
「そりゃ俺のセリフだ。
 俺の息子が大変なことになっちゃうでしょうが!」
「知るか、馬鹿!」

 わかっていてももう制御なんて出来ない。

「……美桜さん?」
「仕事、あるから。
 今日はもう帰らないって伝えておいて。
 ……いいや、自分で手紙投げとく」

 足早に部屋を離れ、急かす想いのままに恒道館を出て、脇目もふらずに屯所へと向かう。
 その途中の路地裏で、我に返り、はぁと息をついた。

(私……何やってんの)

 戻りたいと願っているのは私で、銀時たちはそういう風に接してくれているだけだ。
 戦争が終わってからの自分の足取りを知っている者なんて、ここには誰もいない。
 それなのに、恩を仇で返すみたいなことを。

「あぁ〜あ、最悪……っ」

 痛そうだったなぁと、思い浮かべ、今度帰ったら、ちょっとだけ優しくしてやろうと決意した。



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