RE-TURN

□不変の法則
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* * *(土方視点)
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 あいつはいつだって変わらなかった。
 いつだって高い場所から俺たちを見下ろして、ガキ大将みたいに口の両端をつり上げて、キシシと変わった笑い声をあげて、世界を見下ろしていた。

 あいつが来るといつだって何かが起きて、あいつが去った後は来る前よりも静かで、物足りなくなるぐらいだ。

 だから、俺はあいつが、美桜が嫌いだ。

「久しぶりだってのに、怖い顔してどうしたのさ。
 土方?」

 自分の眉間をちょちょいとつついて、また笑う。
 別れてから、もうずいぶん経ったというのに、こいつは変わらない。
 あの頃と、天人が襲来してきたあの頃と、何一つ変わらない。

「いやぁ、しかし変わったねぇ、江戸。
 面白いモンが増えたねぇ」

 なんでもかんでも楽しむヤツだったけど、俺はこの江戸を今でもそんな瞳で見ることの出来る人間を知らない。
 そんな愛しい目でこの江戸を見つめるモンなんて、いなくなっちまったと思っていたのに。

 どうして、今、戻ってくるんだ。

「おかえりなせィ、美桜さん」
「あらぁ、大きくなったねぇ、沖田」
「その言い方はちっとババァみたいですぜィ」

 いつもの総悟の憎まれ口を止められるのもこいつぐらいだ。
 いつ抜かれたのかわからない、その手にあるのは短銃で、しっかりと総悟の頭を狙っている。

「総悟〜?
 誰にモノを言ってるのかな〜?」
「美桜さんこそ、俺を昔と同じと」
「思ってるわよ〜?
 あんたはいつまでも私の」

 迷いなく引き金は引かれ、頬に痛みを感じて、手をやる。

「可愛い総悟よ」
「て、なんで俺に当たんだよ!?」
「避けない土方が悪い」
「当てても構わなかったんですぜィ」
「はっはっはっ。
 何言ってるの、総悟。
 土方に当てられるわけないじゃな〜い。
 私、土方大好きだもの」
「当たってるっつーの!」

 重い音を立てて、再び短銃がぶっ放される。

「男が細かいことをいつまでもグジグジうだうだと言うんじゃない!
 ま、当てちゃってごめん。
 預けてもらったけど、撃つの初めてなんだわ」

 あっけらかんと笑う様子がどこか腹立たしく思えるのは俺だけか。

「預けてって、おまえ、今はどこにいるんだ」

 こいつが真選組に籍を置いていたことは一度もない。
 ただいつも勝手に来て、勝手に騒いで、勝手にどこかへ行ってしまう。

「どこだと思う?」

 それは答える気がないといっているのと同じだ。
 探られるのが嫌いなのか、隠すのが性分なのか。
 とにかく、大抵は気が向かないと教えてくれない。
 そんな女だ。
 だが、今回は心当たりがある。

「快援隊、か」

 戦争が終わって、こいつが次に行くとしたら、快援隊の連中と一緒じゃないかと思った。
 こいつは嵐みたいな女で、ひとつところに留まれないような性分だから。
 この国に治まるような女じゃないから。

「なんだぁ、知ってたか。
 つっまんないの〜」

 当てられたことが悔しいのか、珍しく頬を膨らませる。

「テメェの行きそうな処なんざ、そうは無ぇだろ」
「えー?
 そうかなぁ。
 鬼兵隊とか攘夷党とかも興味あるんだけどなぁ」

 こちらの仕事を知っていて、平然とその名前を出すヤツはいねェ。

「……美桜」
「興味はあるけど、私、シリアスって苦手なんだよね〜」
「………」
「だーかーらー、そろそろ行くわ」

 からりと言ったことに驚いた。
 てっきり、また真選組をヤサにして出かけて回るのかと思っていたから。

「それがねぇ、ちょっと知り合った人に護衛頼まれちゃってさ。
 なんか、ストーカー被害がすごいらしいの。
 で、私も宿決めてなかったから、宿代わりってことでね」

 何故、と単純に思ってしまう。
 ここにいればいいじゃねぇかと、言えなかった言葉が喉にまた引っかかっている。

「宿なら、ここに泊まればいいじゃねぇですかィ。
 反対するヤツは俺がぶっ飛ばしてやりますぜ」

 俺の言えないことをあっさりと総悟が言う。
 こいつなりに、美桜を慕っているから、必死だろう。
 恋とは言えない、愛でもない。
 そこにあるのはただ変わらない仲間だという感情だけだ。

 そして、俺はだからこそ美桜が頷かないこともわかっていた。

「総悟はワガママも大概にしなさいよ。
 土方を困らせんじゃないの」
「土方さんだって、そう思ってるに決まってまさぁ」
「あはは、言うようになったねぇ。
 これがあの総悟かぁ。
 ……ちっちゃいままでよかったのに」
「美桜さん」
「あっはっはっ、冗談!
 陸奥さんに面倒を起こしてくるなって言われてるから世話になれないよ」

 どうしてこいつはこう。

「じゃあ、また」

 嵐のように彼女が去ってしまっても、総悟はその場を動かなかった。
 ただ彼女の行った方向を見ていた。

「……土方さん、さっきの話」
「あぁ」

 彼女が護衛すると言っていた人物に検討はついている。

「近藤さん、先に気が付きますかね」
「大丈夫だろ。
 あれで近藤さんには頭があがらねぇんだ、美桜は」
「え?」
「近藤さんのお人好しな性格を買ってんだよ、あいつは」

 新たな煙草を取り出し、火を付けてふかす。
 煙の流れる空を見上げれば、憎らしいぐらいの快晴だ。

「それじゃ、仕事にならねぇんじゃ」
「殺しはしねぇってだけだ」
「あぁ、そういうこと」

 いつだって美桜は身勝手で、俺たちのいうことなんざ一つも聞いた例しがねぇ。
 来る度に引っかき回すだけ引っかき回して、気が付けばもういない。
 何度繰り返したかしれないやりとりを思いだし、怒りともいえない感情に舌打ちする。

「見廻り、行ってくるか」
「……素直に美桜さんの様子を見に行くっていいやいいのに……」
「なんか言ったか」
「いいえ、何も」
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