B-girl

□02)新学期
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 新学期で新学年で新クラス。
 新入生に新人戦に…。

「何度来ても無理ですよ」
「でもそれぐらいなら…」
「無理なものは無理です。
 諦めてください」

 向きを変えて、新しい席に着く。
 窓際で後ろから二番目の席。
 窓を開けると、冷たい風が吹きこんでくる。

 新人戦なんて、もう関係無い。

「麻生さん…!」
「…煩い」

 振り向かずにそういうと、走り去る音だけが帰って来た。
 泣いていただろうか。
 だったら、少し可哀相だったかもしれない。

「…麻生さん怖っ」
「…かわいそー、あのこ泣いてたよ」

 クラスの連中は早くも悪い印象を持ったらしい。
 それはそれで都合もイイ。
 無関係だから言える。
 人事だからいえるんだろう。

 私だって、やれるもんならやってた。
 でも、先の見えてる勝負を出来るほど強くない。
 もう一度戻れるなら、戻ってる。
 でも、同じプレイは二度と出来ない。
 ボールの音が無いと息も出来ないけど、きっとコートに入っても、動けない。
 半分の視界じゃ、何も出来ない。

 なるべく自然に見えるように、机に頭を乗せて、目を閉じる。
 こうなってしまったら、寝たふりに限る。
 そのうち新担任が来て静かになるだろう。
 昼の光は眩し過ぎて、左目には何も映らない。
 窓際の席で、本当に良かった。
 バレる確率少ないし。
 黒板は良く見えるし。

「今年も同じクラスか〜。
 よろしくな、麻生」

 知った声に右目だけ開く。
 誰だかわかってるけど、一応の確認のためだ。

 そこにあるのは、学校の中じゃ、まず友達という枠に入るかもしれない男だ。
 体格も良いし、性格もいい。
 協調性はあるし、面倒見も良い。
 更に明るく、元気だけが取り柄に見える体力馬鹿だけど、意外にまわりを良く見ていたりする。
 今もきっと教室の空気の悪さを緩和するためにでも、声を掛けてきたのだろう。

「はよ、桃」

 それだけ言ってまた閉じる。
 ちょっと本格的に眠くなってきたかもしれない。

「おいおい、それだけかよ」

 足りねーな、足りねーよと繰り返す妙な口癖にわずかに上昇した気分で、安心して眠りに入った。



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