B-girl
□14)強がり
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教室に戻りづらくて、私は海堂と別れた後は結局午後の授業を保健室でサボった。
あの子達の言ったとおり、先生方は私のことをかなり特別扱いしてくれる。
目が痛いからと言えば、快くベッドを貸してくれる。
目なんかよりも心が痛くて、枕に顔を押しつけ、声を殺して泣いた。
バスケが私の全てだった。
両親は確かに名プレーヤーかもしれない。
私もそうあるべきだから精一杯努力もしてきた。
バスケを苦と思うことはなかったし、それこそバスケが世界の全てで、大好きだった。
だからこそ、検査の結果を知ったときはもう死んでしまいたかった。
大好きなバスケをできないなら、コートに立つことが出来ないなら、この生にどんな意味があるというのだろう。
結果を聞いたとき、両親は私をただ抱きしめてくれた。
好きなことをしていいよと、言ってくれた。
でも、その好きなことが出来ないのに、何をしろというのだろう。
そして、目が覚めたら真っ暗だった。
そういえば、昼休みから寝倒したんだっけっと思い出す。
人の気配があるから、保険医が残っているのだろうと予想する。
「…あー…」
しかし暗くなると、余計に視界が利かない。
つまり、帰れない。
「…寝るか」
「待てコラ」
唸るような声がカーテンの向こうから聞こえ、慌てて起きあがってそれを引いた。
「海堂!?
なんで?」
問いにはふしゅ〜という吐息しか返ってこなくて、待っていてくれたらしい彼と共に学校を後にする。
「なんで私が保健室にいるってわかった?」
「部活終わって随分経ってるよね。
あー部活までサボる気はなかったんだけどなぁ」
「海堂の家って」
ひとりでずっとしゃべっている私の隣を、彼は無言で付いてくる。
だんだんと私も話すこともなくなり、静かになった頃、海堂はぽつりと言った。
「無理すんな」
小さな子供をあやすように何度も軽く頭を叩いて、優しくするから。
つい反発心が沸き上がってきて。
「こら、私は子供かっ!」
「似たようなモンだ」
怒りよりも、哀しかった。
どんなに強がっても、強がっても、この人は何も言わずに側にいてくれる。
その優しさに哀れみを感じることはなく、どっしりと根を張った大木のように、私を支え、暖めてくれる。
その優しさを受けるような資格が自分にないような気がして、哀しくなる。
て、うわ。
何考えてんの。
私!
「あの、昼は有難うっ」
恥ずかしさを誤魔化すように、笑顔で礼を言う。
呆気にとられているうちに畳みかける。
「変なところ見せちゃって、ゴメンね!?
明日はまた走るの?」
「…あぁ」
「私は明日、休む!
で、うちすぐそこだから!」
バイバイと続けようとしたら、腕を引かれ、肩を抱かれる。
「壁」
「うあ…っ」
やばい。
抱き寄せられると、余計に恥ずかしい!!
「ああありがとうっ、も、だいじょ」
離れようとしたけど、しっかりと肩を抱かれたまま歩きだされてしまって。
「か、海堂!!」
「…家の前」
「いいよっ、悪いよ!」
「……見えてねぇ…」
たった一言だったけど、気付いた。
なんで、もう、バレてるかな。
これでも細心の注意をしてたのに。
気がついたら、もうジタバタしても仕方ないと腹をくくるしかない。
結果、玄関まで送られてしまって。
「晴樹、おかえりなさいっ」
泣き腫らしたような目で嬉しそうに母に迎えられるところまで見られてしまった。
ちょっとバツが悪い。
海堂は挨拶もそこそこに、来た道を走って戻っていった。
「送ってきてもらうんなら、ちゃんと連絡しなさい。
お母さんもお父さんも心配したんですからね。
お父さんなんて学校まで迎えに行っちゃったわよ」
そういえば姿が見えない。
「お父さんが?」
「行き違ったみたいね。
電話してあげなさい」
「はーい」
皆が皆心配してくれるから、私は明るく笑うしかない。
それしか返せない。
だから、どうか。
誰も、私の中の闇に気付かないでください。