B-girl
□14)強がり
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屋上の更に上、入口上が私の普段の特等席だ。
階段も梯子もないが、両手をつけば乗れないことはない。
もちろん両手が塞がった状態でお弁当は持てないので、結び目を口に咥えることになるのだが、人気のない場所で気を使う必要はない。
給水塔にハンカチを敷き、寄りかかって膝を投げ出す。
その上にお弁当を広げ、両手で箸を持ち、お弁当に礼をする。
(いただきます)
そんな風に普段通りの昼食を済ませ、のんびりしていると、甲高い声が出てきた。
一つではなく複数のそれに聞き覚えがないこともない。
「ほんっと、あの女ムカつく!」
「何であんな子がマネージャーなの!?」
その単語で何となく興味を惹かれる。
もしや、自分のことかもしれない。
音を立てないように、そっと移動する。
より影になる方へと。
「だいたい竜崎先生だって女子マネはとらないって言ったのに、どうしてあの子は特別なの?」
「特待でも何でもないのに、他の先生だって麻生さんだけ特別扱いしてさー」
「バスケのマネージャー断って、なんでよりによってテニス!?」
あー…久々に聞いたなぁ。
こーゆーの。
口元が楽しさに緩んでくる。
元々が攻撃的な性格なので、こんな風なのは慣れてもいる。
けしかけることも多い。
本人がいないとここまで言えるのに、今まで何の嫌がらせもなかったこと自体奇跡だ。
やっと来たか、と腰をあげる。
もちろん応戦するために。
そっとそっと移動している最中、変化が起きる。
もちろん移動中の私には無理だ。
「どうして、バスケをやめたんでしょうね?」
誰かが静かな声で言うと、全員が口を閉じる。
「だって、以前の麻生さんなら絶対にこんなことなかったでしょ?
面倒見は良いし、愛想も良かったし。
でも、今は周りを拒絶するみたいにやってて、まるでわざと嫌われ」
「はーい、そこまで」
屋上の扉の隣、彼女の言葉を遮る。
その場にいた女子がざわつく。
「貴方、いつから…」
リーダー格らしき少女が呟く言葉を笑顔で制し、言葉を繋げる。
「私は誰にも好かれようとも嫌われようとも思っちゃいないわ。
それと、マネージャーじゃなくて引き受けたのはサポーター。
竜崎先生の手伝いの一環なのよ」
ここまではいい?と確認する。
無言のままの彼女たちに続ける。
「それから「特待でもなんでもないのに」特別扱いなのはまあ、これでも成績優秀ですから?」
ワザと挑発して。
「バスケは」
無理やりに笑顔を作って、無理やりに紡ぎ出そうとした言葉は喉につっかえて出てこない。
「…バスケは?」
鸚鵡返しにされ、ぐっと両手に力を込めた。
ここで言えば、吹っ切れると思った。
「バスケは、あ」
「麻生いるかー?」
さっきまでの私と同じように言葉を遮って、すぐ脇の入口から桃城が顔を出した。
私を見つけ、にやりと笑って呼び出しされてると連れ出した。
彼女たちに別れを告げ、校舎に入る。
(なんて、タイミングの。
悪い)
バスケの神様は、私から視力を奪っておきながら、バスケをすることを奪っておきながら、ウソでもバスケを嫌いと口に出すこともさせてくれないらしい。
急に暗いところに入ったため、すぐには動けない私の腕を桃城が引く。
「余計なこと言おうとしただろ」
桃城に合わせて階段を降りることのできない身体が躓く。
それを彼はなんなく抱き留めて、囁く。
「お前、見てて危なっかしいんだよ。
ほっとけねーんだ」
「ちょっと」
「好きなものを否定すんなっ」
「っ」
「バスケ好きなんだろ?」
「っ…はなせ…!!」
階段ということも忘れて、力一杯突き放すとすぐ後ろはもう壁だったらしく、支えの出来た桃城は更に強く腕を締めつけてくる。
「――言えよ」
「嫌っ」
「好きって言えっ!!」
「ヤっ」
なんで、言わせようとする。
封印してきた気持ちを、解放しようとする。
桃城には関係ないのに。
「桃には関係な」
「関係ないことあるかよ!
俺は、俺はなぁっ」
「いやぁぁぁっ」
急に解放され、今度は二の腕を強く捕まれて引き寄せられる。
感触はよく知っているものだ。
「なにしてやがる」
唸るような海堂の声に怯むことなく、桃城が吼える。
「なんだよ。
てめーには関係ねぇだろ!?」
無理やり立たせるように私を支えてくれる、そのいつもの動作に平静を取り戻す。
そして、思い出す。
この二人がものすごく仲が悪いことを。
「海堂、行こう」
「…いいのか」
「うん」
後ろで騒いでいる桃城を無視して、私は階段を駆け下りた。
転ぶ寸前とか気にしてもいられなかった。
後に付いてきていたはずの海堂が下で抱き留めてくれ、軽い礼と無理やりの笑顔を作って彼と別れた。
「…本当に、大丈夫なんだな?」
「うん、ありがとう」
* * *