狂想曲
□もう少し あと少し
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今日までの疲れと明日からの楽しみに少し浮かれているような、そんな独特の雰囲気の金曜の夜の街中を鮎沢と並んで歩く。
新学期と体育祭の準備に奔走していた鮎沢は、少しお疲れモードだ。
バイトが終わって気が緩んだのだろう、大きなあくびをした。
「わぁー大きなおくちv食べられちゃいそう」
「誰が食べるか!!」
「あ、もしかして鮎沢は食べて欲しいの?じゃ遠慮なく」
俺は鮎沢に近づき、頬に優しく触れる。
「ち、違うわー!!」
鮎沢は真っ赤な顔で叫びながら、右手を繰り出してくる。
それを軽々とよけながら笑う。
その笑いで鮎沢はますます怒る。
「ったく、本当に変態だなお前」
呆れたように言った鮎沢は、大きなため息をついた。
そんなふうにじゃれあって?いるうちに駅に着いた。
俺と鮎沢が乗る電車がホームに入ってきたので乗り込む。
この時間には珍しく空いている。
いつもは立っている鮎沢が珍しく空いている座席に座る。
相当疲れているようだ。
俺も隣に座り、電車が動き出すのを待つ。
「ふぁっ…」
さっきよりは控え目にあくびをする鮎沢。
「眠いなら、肩寄りかかっていいよ?」
「結構だ!お前のそばで寝たらなにされるか分からないからな!!」
目をこすりながら言ったあと、わしゃわしゃと頭をかく。
「ひどいなぁ。まぁ鮎沢のかわいい寝顔見たら、どうなるか自分でも分かんないけどv」
「絶対寝ない」
頬をパンパンと2回叩いて眠気をさまそうと必死な鮎沢の姿にちょっと傷つくが、まぁ男として警戒してくれてるってことかな…?
ゆっくりと電車が動き出し、眠気を誘う振動が繰り返される。
電車の音が響くだけの車内
そんな中、ふと感じた肩への重み。
鼻孔をくすぐる鮎沢の香り
不意打ちの出来事に俺の鼓動が早くなる。
「ったく、寝ないって言ってたのに…」
無防備に肩に寄りかかってくる鮎沢に苦笑いしながら小さく呟く。
窓ガラスに映った俺の顔は僅かに赤くなっている。
肩への重みは、嬉しさと緊張感を俺に与えかき乱す。
「んっ、わ、悪い」
聞こえた言葉と共に、肩の重みがなくなる。
「いいよ。俺が降りる駅に着いたら起こしてあげるから、それまで寝てなよ」
離れていった香りに寂しさを感じながら言う。
「いや…大じょ…ぶ……」
なんとか強がりを言った鮎沢は、そのまま再び眠りに落ちた。
戻ってきた重みと香りに満足感を感じながら、この時間が少しでも長く続いて欲しいと思った。
でも、俺の願いとは裏腹に降りる駅は近づいてくる。
いつもより早く感じる電車のスピードを恨めしく思いながら、肩にある鮎沢の頭に頬を寄せた…
もう少し あと少し
そばにいたい
───────
結局、もう少しあと少しと降りる駅を通り過ぎた碓氷は、美咲を家まで送ったのでした。
「なんでお前まで、ここで降りるんだよ!?」
「えー?だって美咲ちゃんが寝過ごしたら大変だなって思って。あー、可愛かったな美咲ちゃんの寝顔v」
「ーっ!くそ!!なんで寝たんだ、私」
「そりゃ、俺の肩枕が気持ちよかったからじゃない!?」
「アホか!!もういい、ついて来るな!お前、帰れよ!!」
「えー俺、ストーカーだからv」
「碓氷、そこに交番があるがお前を突き出してもいいか?」
end
ZARD『もう少し あと少し』より"もう少し〜そばにいたい"