狂想曲
□あなたを感じていたい
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吹きつける風が冬本番を思わせる。
冷たい風のなか俺と鮎沢は並んで帰っていた。
生徒会の仕事に夢中になっていた彼女は、窓の外が暗くなっても一人で黙々と書類を整理していた。
冬の間は、安全を考慮して下校時刻を早くしているのだが、彼女は「私は強いから大丈夫だ」という全然大丈夫じゃない理由を述べ、下校時刻を過ぎても仕事にのめり込んでいた。
俺としては、「あんたも女の子なんだよ」と強く言いたいが、この人には理解できないだろうな…
暗くて危ないってことを、家まで送る理由にするのも悪くないか…
「はぁ…寒いな、すっかり冬だな」
ちょっと赤いほっぺたの鮎沢が、白いマフラーに顔をうずめて呟く。
「そうだね。今日は特に冷えたらしいよ」
「そうなのか。ってお前、何でマフラーしてないんだよ!?」
「あー、今朝寝坊して、遅刻しそうだったから慌てて忘れたんだよねー」
「へぇー、お前が慌てるなんて意外だな…遅刻とか気にしないかと思ってた」
まぁ、確かにそうだったな…鮎沢を知るまでは。
「だって、遅刻したら誰かさんが鬼になっちゃうでしょ!?」
からかうような口調で言ったら、やはり睨まれた。
本当は、朝から鮎沢に逢いたいから遅刻したくないんだけどね…
言っても伝わらないだろう本心を隠す。
「私なんか送らないで、寝坊しないようにさっさと帰って寝たらどうだ?」
拗ねたような表情の彼女がかわいいと思ってしまう。
「それは、俺が今日みたいにマフラーを忘れて、風邪を引かないように心配してくれてるの?」
「はぁっ!?アホか!!私はただ寒そうなお前に送って欲しくないだけだ!!」
はぁ…なんだかんだ言って、彼女は優しいのだ。今の発言も、俺の体調のこととか気遣ってくれているのがわかる。
寒さが少し和らいだ気がした。
あー、ヤバいかも。顔赤くなってそう。
「それって、防寒してたら送っていいってこと?」
「ばっ、違う!!そういう意味じゃなく「美咲ちゃんの照れ屋さんv」…人の話を聞け!!」
仕返しに鮎沢も赤面させたくて言ってみたら、案の定真っ赤になりながら怒鳴った。
これでおあいこかな?
「ほら会長、そんなに騒いだら迷惑になっちゃうよ?住宅街なんだから」
「っ、誰のせいだよ!」
鮎沢の不機嫌なオーラが隣から、ひしひしと感じられる。
あと、数十メートルで彼女の家に着く。
もう少しで彼女のぬくもりがなくなってしまう。
本当はもっとずっと一緒に居たい。
このまま
あなたを感じていたい
「…わざわざありがとな。お前も気をつけて帰れよ」
「うん。じゃあ、また明日ね」
自分の愚かな願いを封印しつつ、彼女に背を向け歩き出す。
一気に寒さが増したような気がした。
「碓氷っ!!」
ぼーっと考えていたら、後ろから呼ぶ声と共に首もとにぬくもり。
マフラー…
振り返ると鮎沢が俯きがちにいた。
「っその…寒そうだから…少しはましになるだろ?」
俺の首もとにある白いマフラーは今まで鮎沢が巻いていたもので、彼女のぬくもりと香りが感じられた。
「…ありがと、鮎沢」
そう言って微笑めば、彼女は一瞬照れたような表情をした。
「私は明日の朝も校門に立つのにマフラー無いとつらいから、寝坊しないで、早く学校に来いよ!!」
ああ…完敗だ
そんな強気な笑顔なのにちょっと赤いほっぺで言われたら…
俺、明日5時半起床決定──
「そんなに早くご主人様に逢いたいの?」
なんとかいつものようにからかうと、鮎沢らしい反応が返ってくる。
「誰がご主人様だ!!アホ碓氷!!お前なんかさっさとフェロモン星に帰ってしまえ!」
「えー、じゃあ美咲ちゃんも一緒に「行かんっ!!」
…ちょっと傷つくな
「まぁ、そん時はさらって行くよv」
あ、呆れた顔。
でも、寒い中鮎沢をこれ以上引き留めるのも気が引けるから…
「じゃ、コレはありがたく借りるね。明日の朝返すよ」
「おう…」
「また明日ね」
「ああ、明日な」
さっき別れたときと同じ状況なのに、寒さなんか感じないのは、きっとマフラーのぬくもりだけが理由じゃない───
end
ZARD「あなたを感じていたい」より、曲名拝借