物語

□真夜中の侵入者
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持ち帰った生徒会の資料に目を通していた美咲は、凝った首や肩をほぐそうと伸びをした。

机にある時計を見ると、23時40分頃だ。
資料の量からして、終わるのは1時ぐらいだと予想を立て、再び取りかかる。


コツ、コツ

資料とにらめっこしていた美咲の耳に聞き慣れない音がして、作業を中断する。

不審に思った美咲は音の出所を確かめようと、部屋を見回す。
どうやら、窓から音がしているようだ。
風のせいかと思ったが、今日は風は吹いていなかったことを思い出し、美咲は怖くなる。

──まさか、幽霊…

そんな非現実的なもの信じていないと自分に言い聞かせるが、身体の震えは収まらない。

確認すればいいと思うのだが、身体が動かない。
そんな美咲の耳に聞こえてきた声に、身体の強張りがとけていく。

「美咲ちゃん、入れて」

まだいつもより早い鼓動を感じながら窓へ向かい、カーテンをあける。

「碓氷、何時だと思ってるんだ?」

美咲の隣に住む碓氷拓海が、屋根をつたって来たのだろう、笑顔で立っていた。

「うーん、午前0時前ぐらいかなぁ」

「午後11時46分だ!つか、そういうことじゃなくて、この時間に女子の部屋に来るのは非常識だろ!?さっさと帰れ!!!」

とぼける碓氷を母たちを起こさないように小声で叱りつける。

「確かに非常識だけど、ちょっとだけ。俺と美咲ちゃんの仲じゃんかv」

「ほぅ、どんな仲なんだ?」

「俺、美咲ちゃんのご主人様でしょ」

碓氷のにっこりした笑顔に、美咲は怒りのオーラを発する。

「ふざけるなーっ!!誰がご主人様だ!?こんな変態宇宙人がご主人様でたまるか!お前はストーカーだろうが」
美咲はそう言ってカーテンを閉めて、勉強机に向かう。


父が蒸発してすぐに鮎沢家の隣りに碓氷家が引っ越して来た。
碓氷家は父・拓朗と息子・拓海の父子家庭で、近所や学校ではイケメン親子だと噂された。
美咲は父親の裏切りで、男嫌いになってしまったが、碓氷家に色々と助けられて、今ではご飯を一緒に食べるなど家族のようになっていた。


美咲は生徒会の資料を手にするが、碓氷が気になってはかどらない。
秋になり、朝晩は肌寒くなっている。
諦めたようにため息をつき、窓へ近づき鍵をあけ、碓氷を中へ入れる。

「ったく、用件はなんだ?」
美咲は自分の性格を呪いながら碓氷に訊ねる。

「んー、美咲ちゃんとの愛を深めよう「碓氷、殴っていいか?」
碓氷の胸ぐらをつかみ、拳を振り上げる。

「えー、美咲ちゃん恐〜い。でも…」
そう言って碓氷は、美咲を抱きしめる態勢になる。
「自分から寄ってくるなんて、誘ってる?」

「っ!!放せっ!!!おい、碓氷っ」
美咲は真っ赤になりながら、もがくが碓氷力にはかなわない。

「あんまり騒ぐと美奈子さんたち起きちゃうよ?」
この言葉にはっとなって静かになる美咲。

「で、結局何の用なんだ?」
碓氷の腕の中で上目遣いで見上げてくる美咲に、碓氷は理性を必死でつなぎ止める。

「もうちょっと待って、あと1分」

美咲は不思議に思いながらも、早くこの態勢を終わらせたい一心で静かにした。

沈黙が続き、自分の心臓の音がいやに大きい気がする。
沈黙に耐えきれなくなった美咲が口を開こうとしたとき、

「鮎沢、17歳の誕生日おめでとう」
柔らかい笑みを浮かべながら、碓氷は言った。
祝の言葉に驚いたのか、碓氷の笑顔に見とれたのか、美咲が言葉を発せないでいると、碓氷は美咲の頬に優しいキスをした。

「!?お、お前、何すんだー!!!」

まるで王子のキスで覚醒した姫のおとぎ話のように、美咲もまた覚醒し、碓氷に殴りかかった。


「しーっ!だから起きちゃうってば」
美咲の攻撃を軽く避け、人差し指を美咲の唇にあてる。

「っ〜!ほらもう用は済んだだろ!?さっさと帰れ!!つか別にわざわざ今言わなくても、朝でいいだろ?」

「だめだよ。17歳になった鮎沢に1番に言いたかったから」
真剣な碓氷の眼差しに美咲は更に顔を赤らめる。

「っ〜!恥ずかしい事を言うな!!…でも、ありがと…な」
俯きがちに小声で呟く。

「んじゃ、そろそろ帰るね。このままいたら美咲ちゃん襲っちゃいそうv」

「っ、さっさと星へ帰れ〜!!」

窓から出た碓氷が動きを止める。

「?どうし…」

美咲の唇に碓氷のそれが重なり、言葉が奪われる。

「好きだよ、鮎沢」

思考が止まったままの美咲に囁いて、碓氷は器用に屋根をつたって帰っていった。


「…っ!!!」
美咲はそのままそこに座り込んだ。

17歳の誕生日は、異常なほどの顔の火照りと、心臓の心拍数を感じながら始まったのでした。


そして、美咲が碓氷が部屋では無く自分の心に侵入したことに気づくまで、あと少し…


end



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