物語
□G@ME
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「お疲れ様、美咲ちゃん」
着替えを終えた美咲のもとに、さつきが笑顔でやってきた。
「あっ、店長お疲れ様です」
「今日はありがとうね、急にシフト入ってもらって」
「いえ、特に用事もなかったので大丈夫です」
今日はもともとバイトはなかったのだが、エリカが風邪をひいてしまい、シフト変更があったのだ。
「そう?あっ、碓氷君もごめんね。今日もおいしい料理をありがとう」
厨房から出てきた碓氷にも声をかける。
「いえ…」
「デートの予定とかあったんじゃない?本当にごめんなさい、2人とも」
「い、いえ、そんなことはっ…」
真っ赤になりながら、慌てて首を振る美咲。
「まぁ、俺はメイド服の美咲ちゃん見るの好きですし…」
「だ、黙れ、変態!!」
「えー、ひどいな〜」
まぁどんな格好の美咲ちゃんも好きだけどvと言う碓氷と、ますます真っ赤になる美咲をみてさつきは萌の花を咲かせている。
「ムフっ、いい…いいわ」
「ちょっ、店長…大丈夫ですか?」
「あっ、そうだ!はい、これ」
別の世界に飛びかけていた意識を戻しながら、さつきは美咲にあるものを手渡す。
「…ぽ、ポッキーですか?」
美咲は困惑しながら、さつきに訊ねる。
「そう、今日は11月11日でポッキーの日でしょ。だから、2人に感謝の気持ちなの」
「…ありがとうございます」
「あっ、2人で1箱だから仲良く半分こしてね?」
明らかに何か妄想して、きらきらした目で見つめてくるさつきに美咲は苦笑いする。
「むしろ、1本を半分こするという手もあるわ」
さつきは、妄想の世界に旅立ったようで、美咲が″1本を半分こする″というフレーズに反応したのに気づかなかった。
「でも、美咲ちゃんはポッキーゲームのやり方を知らなくて、碓氷君に教えてもらって…」
妄想を暴走させるさつきの言葉に、碓氷は美咲の赤くなった耳に囁いた。
「ポッキーゲームはすでに調教済みだよね、会長v」
「っ!!お前はアホなこと言うな!!…もういい、さっさと帰るぞ」
恥ずかしさで顔から火が出そうな美咲は、碓氷を引きずりながら「お疲れ様でした、お先に失礼します!!」と言い、裏口から出て行った。
「きゃあああ、碓氷君たらっ」と妄想にふけるさつきは、美咲の挨拶も聞こえなかったようだ。
ここ数日でめっきり寒くなり、冷たくなった風が赤くなった頬に吹きつけ、美咲は少し助かったと思った。
「ねぇ、美咲ちゃん」
碓氷は美咲に呼びかけながら、掴まれていた腕をほどき、美咲の手に自分のそれを絡めた。
「な、何だ?」
「この前のポッキーゲーム、俺負けちゃったから、宣戦布告したいんだけど?」
碓氷は美咲の顔を覗き込みながら言う。
「ーっ、アホか!!するわけないだろ、あんな変態ゲーム!!」
引いてきていた頬の赤みがぶり返すのを感じながら、怒鳴る。
「あっ、美咲ちゃん、俺に負けるのが怖くて逃げるんだ〜」
「はぁっ!?んな訳ないだろ!!…いいだろう、受けて立ってやるよ!!」
碓氷の罠にはまってしまったことに気づかない美咲に、碓氷はくすっと笑い、手をぎゅっと握る。
「じゃあ、俺ん家行こっかー」
「えっ…!?いや、待て碓氷!!なんでお前の家なんだよ」
「だって、2人っきりになれるとこって俺ん家ぐらいでしょ?それとも、他の人に見せつけたい?」
「アホか!!絶対やらんっ」
意地悪な笑みを浮かべる碓氷に、激しく首を振って拒絶を表す美咲。
「だったら俺ん家、行こうねv今日は金曜日で、明日は休みだし…」
「いや、でも…」
碓氷の意図に気づいた美咲は、顔を更に赤くしながら俯く。
「店長が、今日のお詫びに協力してくれるってさ。…ねぇ鮎沢、ダメ?」
「…ダメじゃ、ない」
小さくなる声に反比例して、絡めた指に力がこもるのを感じた碓氷は、少し頬を染め笑顔をみせる。
(本当、可愛すぎなんだけど…)
(こいつのこんな笑顔見れるんだから、断れるわけないじゃないか…)
「「…ズルい」」
互いに呟いた言葉に、顔を見合わせ笑った。
碓氷の家に着いた2人は対峙し、美咲がポッキーを取り出す。
「ポッキーゲームでは、ズルはなしだから。あと、手加減しないよ?」
いつものニヤリとした笑みで言う碓氷に、美咲は「もちろんだ!」とポッキーの端をくわえた。
静かな空間にぽきぽきと音が響き、近づく唇がついには重なる。
「…ん……ふぁ…」
ポッキーとともに、互いの唇を堪能する。
しばらく続いていた深い口づけだったが、美咲が碓氷を軽く押したことで勝負がついた。
「はい、俺の勝ちー」
息が乱れている美咲に、余裕綽々な笑みを浮かべる。
「くそ!…碓氷、もう1回っ!!」
赤い顔で恥ずかしそうに、だけど強気に言う美咲に、碓氷は少し驚いた表情をしたが、微笑んでポッキーをくわえる。
「何度でもv」
こうして2人の11月11日は、チョコの甘さが霞むぐらいの甘い口づけが繰り返された──
end