物語
□思惑通りのハロウィン
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「Trick or Treat!」
むかつくぐらいの流暢な英語の言葉と共に生徒会室に入ってきたのは、何かを企んでいるような笑顔の碓氷だった。
美咲は本能的、あるいは経験上、この笑顔はろくなことが起こらないなと察知し、一歩後ずさる。
しかし、その間を埋めるように碓氷もまた一歩踏み出す。
「ねぇ会長、もしかして聞こえなかった?しょうがないから耳元で囁いてあげよっかv」
そう言って碓氷は更に美咲に近づき、壁と自分の間に美咲を閉じ込めた。
「い、いらん!!近い、離れろよっ」
顔を朱くそめながら、美咲は碓氷を両手で押し返すが効果がない。
「いいじゃん、誰も居ないんだし。ねぇそれよりさっきの続き。会長だから今日が何の日か分かってるでしょ。確かイベントもあったよね、メイ「お、お前その単語を学校でだすな!!」
美咲は慌てて碓氷の口を塞いだ。
「じゃあほら早く!!早くしないとイタズラしちゃうよ」
ニヤリと笑いながら迫ってくる碓氷に、美咲は慌てて制服のポケットに手を入れた。
「っほら、これ!」
美咲が差し出したのは棒付きの飴。
こいつ必ずイベントには乗ってくるからな…
前は「ベッドの日」とか、救急の日とかに絡んできたし…
飴用意しててよかった
と美咲は安堵しながら、碓氷の思惑から逃れられたことに、少しだけ勝った気分になっていた。
「なーんだ残念。でもまさか会長がお菓子持ってるなんてね」
「ふんっ、自分の身を守るためだ!!」
「ひどいな〜」と言いながら、笑っている碓氷には思いあたることがあるのだろう。
すると、美咲が碓氷の前に手を出した。
「碓氷も、trick or Treat!」
子どもみたいな笑顔でお菓子をねだる美咲に、碓氷は少し驚いた表情を浮かべた。
「会長が珍しいね」
「だ、だってお前だけズルいだろ!!」
らしくないと自分でも思ったのか真っ赤になる美咲を、碓氷は優しい目で見つめるが、すぐにいつものニヤリ顔になる。
「ふ〜ん、じゃあ俺があげないって言ったら?」
「力づくで奪う!!」
「そこはイタズラしてくれないの?」
「お前にしたら後が怖いからな…。意外に根に持つタイプだしな、お前は」
「そっか、じゃあ奪ってもらおうかな俺の唇v」
「はぁっ!?何で唇なんだよ!?」
「だって、さっき食べた飴が最後だったんだよね。だから今あるのはこれだけだよ」
そう言って口に含んでいる飴を見せつける。
「ほら早く奪わないと、なくなっちゃうよ?」
美咲は真っ赤な顔で睨みつけた。
「まぁ、美咲ちゃんには無理か。俺には適わないもんね」
こんな風に言えば、美咲は負けん気が強くなってしまい、結果的に碓氷の思うツボなのだ。
「っ〜くそっ!!」
そう言って、碓氷のネクタイを引き、甘いお菓子へと唇を寄せる。
飴を奪い取ろうと懸命に舌を使う美咲に、碓氷は愛しさを感じた。
俺としては、TrickでもTreatでも鮎沢とキスできれば、どっちでもいいんだよね…
結局、碓氷の思惑通りになってしまったので、「今度こそはこいつに勝ってやる!!」と酸素の薄くなった頭の中で叫んだ美咲であった。
end