「はい、パオリンちゃんはちょっと多めね!」
「わあ、美味しそう!ありがとー!」
「あ、ネイサン姐さんもどうぞー!」
「あらぁ、アタシにも?ありがとぉ〜」
「おーい、俺にはないのー?」
「ちょっ、袋引っ張らないでください虎徹さんっ!皆さんの分、ちゃんとありますから!」
今日は、バレンタイン。
私はトレーニングルームで休憩中のヒーロー達にチョコを手渡していた。
みんなに囲まれながらちらり伺い見るは、ランニングマシンで汗を流す彼…バーナビー。
彼と付き合うことになってから初めてのイベント。
まだ誰にも内緒で付き合ってるから、めくらましに義理チョコ配り。
残るヒーロー達にも配り終え、私は走り終わって汗を拭く彼に近付いた。
「はい、バーナビーさんも!」
みんなと同じ、チョコブラウニー。
流石にみんなの前で彼だけ気合いを入れたチョコを渡すわけには行かないから、こちらもめくらましに作っておいた。
本命は夜に渡すって、バーナビーには言ってあるんだけど…。
「…バーナビー、…さん?」
なかなか受け取らない彼を見上げると、とても不機嫌そうにため息をつかれた。
「…申し訳ありませんが、甘いものは好きではないので」
目を合わせないように、私に背を向けて。
彼はトレーニングルームを後にした。
なんだよバニーのやつ愛想わりぃなぁ、なんて。
嫌な沈黙を振り払うような虎徹さんの声が遠くに聞こえた。
「…っ」
泣きたくなる気持ちをこらえて、私は部屋を飛び出す。
左右をさっと見渡せば、トレーニングルームを出て、少し行ったところにあるドリンクコーナー。
そこのベンチに彼は俯いて座っていた。
「…バーナビー。…私、なにか気に障ること…したかな」
私が目の前に立っても、彼は顔を上げない。
甘いのが嫌いな彼に、無理をさせていたのかもしれない。
…初めてのイベントだからって浮かれて、バーナビーの気持ち、考えてなかった。
「…ごめんね、私…浮かれすぎてたね」
握りしめた袋の下で、ブラウニーがつぶれる感触。
「今日は、帰るね…お疲れ様」
震えそうな声をおさえて彼に背を向けると、ぐい、と手を引かれて。
ブラウニーの袋が、ばさりと落ちた。
「…すみません、浮かれていたのは僕のほうです」
振り返り見下ろした彼は、少し横を向いて、頬を少し染めていて。
「夜に僕だけ特別なチョコを頂けるって、分かっていたのに…楽しそうにチョコを配る貴女や虎徹さん達に…嫉妬してしまって」
「…バーナビー」
頬を染めたまま、彼ははにかんで。
ちょっとばつ悪そうに、私を見上げた。
「…本命、楽しみです」
胸がきゅうっ、としめつけられて、私は腰かけたままの彼の頭を抱きしめた。
「…ビターチョコのケーキ、残したら許さないんだからね」
「いいですね。甘さ控え目」
引き寄せられ、彼の膝に腰を落とす。
こめかみに唇を寄せ、彼は耳元で囁いた。
「甘いのは、貴女でお腹一杯になりそうですからね」
「…もうっ!」
どうしようこの人かわいすぎる
「…あれで隠してるつもりなのよね、あのバカップル」
「まぁまぁ、ここは微笑ましく見守ってあげようじゃないか!」
「…茶番に付き合うこっちの身にもなれよ…」
「…見切れがここだけ!?」
(title:確かに恋だった『ラブコメで20題』より)
拍手ありがとうございます★お話はこれで終わりですがこれからもよろしくお願いします★
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