妄想話Ｔ＆Ｂ（兎虎）
□それが恋だと気付かないから（未完）
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アポロンメディア社、ヒーロー事業部オフィス内。
突発的な事件が起きなければ、あと３０分程で退社の時刻だ。
「なぁ。今夜、お前んちで呑みたいんだけど？いい？」
今のは、オジサンの（今夜抱いて欲しいんだけど？いい？）という意味。
隣のデスクでそう僕に問いかけてくるオジサンは、既に仕事を数刻前から放棄していることに僕は気付いていた。
更に言えば、今日中に彼がこの隠語を使ってくる事も朝一で顔を見た瞬間から予測していた。
（今日は言い出すのに随分と時間が掛かりましたね？今更恥ずかしがってどうするんですか？オジサン）
こう言ってやったら彼はどんな顔をするだろう？
僕はオジサンから死角になる右の口角を上げ嗤う。
「ええ。別に構いませんよ。」
僕はパソコンの画面を見つめたまま、キーボードを叩く指先も止めず、ごく普通の日常の会話のように応える。
仕事が入ってる時以外は、僕の答えはいつもこうだ。
（ええ。抱いてあげますよ）
合理主義の僕は余計な言葉は言わない。
「僕は定時で終わる予定ですが…どうします？一緒に上がりますか？」
「ん。そうする。いつも悪いねバニーちゃん」
そう言うと、オジ
サン は経理の女史の姿が既に無いのをいいことに、ハンチングを目深に被り、長い脚を行儀悪くデスクに乗せ、居眠りを決めこんだ。
僕は目線だけで彼を盗み見る。
（いつも悪いね…？）
僕の車に同乗して帰ることが？僕の部屋に来ることが？僕の時間をあなたの為に割くことが？
恋人でもない僕に浅ましくＳＥＸを強請ることが？
あなたは『悪い』と思いながらそれらを何度も僕に求めるんですか？オジサン。
それとも、台詞自体が社交辞令？
…おかしいな。何故僕はこんなにイライラしているんだろう？今更だろう？彼と寝るのなんて…
２ヶ月程前のあの日、どういう経緯でかオジサンは僕の部屋で酒を飲み酔っ払い、挙げ句の果てに、僕の腹の上に乗り百戦錬磨の娼婦顔負けの腰使いを披露した。
『あ、あ、あ、あ…んッんはぁッ！！いいッ！はぁ…バニーちゃ…の、んッ！気持ち、い……バ、ニ…もっと…もっと奥まで、欲し…！」
僕は、その後オジサンの体を床に引き倒し、押さえつけ、盛のついた獣みたいに腰をガンガン振り続けた。いつもの飄々とした太陽みたいなオジサンの顔が、淫らな悦びの形に歪む。僕が腰を打ちつける度、指と舌で肌
をなぞる度に…。その様が息をのむほど綺麗で、淫靡で…堪らなく興奮した。
僕が今までしてきたＳＥＸはいったい何だったのだろう？
今まで抱いた女達は、ただのキレイなだけの人形だったんじゃないか？
…そう思わざるを得ないほど、オジサンとのＳＥＸは激しく、生々しく、僕の雄の本能を揺さぶり覚醒させた。
それから、こうして十日に一度くらいの間隔でオジサンが僕を誘い、僕の部屋で酒を呑みＳＥＸするというふしだらで危うい関係がダラダラと続いていた。
助手席のシートに深く腰を落として座るオジサンの顔は、運転する僕の目線より大分低い位置にあり、表情が掴めない。
オフィスを後にしてから今現在、僕とオジサンは一言も言葉を交わしていない。
普段、黙ってろと言っても喋り続けるこの人が、この秘め事に身を投じる時間だけはいつも無口になる。
だが、居眠りしてる訳じゃないのに帽子で表情を隠し、意図的に僕の視線から自分を隠そうとするあざとい仕草が、今日はやけに鼻について仕方がない。
そう思ったら見慣れたツートンカラーのハンチングがやたらと疎ましく思えてきた。
「いつも密かに思ってたんですけど、室内や車内では帽子、取ったら
どうです？」
急に、この空気で、ある意味どうでもいい内容の話を振られたのが意外だったのか、オジサンは少し驚いた顔をして反射的に此方を仰ぎ見た。
「え…何？急に…？ごめん、気になる？バニーちゃんてマナーとかにうるさい人？あ〜…うるさそうだな〜お前。お坊っちゃまだしなぁ…つーか実際うるせーし…」
最後の方はブツブツと独り言のように小さな声で言う。…聞こえてますよオジサン。
話の内容なんて実はどうでも良かったが、なぜかオジサンの顔を此方に向かせたくて会話の続行を促す。
「は？どういう意味ですそれ？」
「…何でもないです。ごめんなさい。…つーかさ、これ俺のトータルファッションの一部だぜ？脱ぐわけにいかねーだろ？分かってる？この絶妙な統一感てヤツをさ！」
そう言うとオジサンは自分の頭の先から爪先までを指差して、二ッ！と笑い最後に親指をビシッと立てた。
「ハァ…もういいです」
オジサンの自己満足ファッション講座はもうたくさんだ。
「あ〜、バニーちゃんは帽子被んない主義だもんな〜。それにお前、眼鏡のことしか興味ねーしな〜」
カチン。眼鏡関係ないですよね？