Chocolate Assort

□疑惑
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違うな―――…

依然談話室のソファに寝転んだままのオレは、唇を撫でて思う。
甘ったるいだけで 酸味のないキス。どこかほろ苦いその味をオレは知っている。
とても身近な味。


「甘ったりぃ…」


一言ぼやいて、オレは瞼を閉じる。


なんなんだ。
合っているはずのピースが上手くはまらないようなもどかしさ。苛立ち。
だんだん、考えるのが嫌になる。


結局、どうしようもなく渦巻く不安を掻き消すように オレは夢の世界へ身を投じることにした。





「―――…シ……ス、……リウス…おーい、シリウス!起きろってば!」


不明確な視界で、丸眼鏡がオレを揺すっていた。


「………あ?」

「あ?じゃなよ!もうとっくに夕方さ!」


思い切り眼をこすると、丸眼鏡…いや、ジェームズが呆れかえったように肩を竦めていた。
窓に目をやると、言われた通り 空はすっかりオレンジ色に染まっていた。


「それにしても良く寝るよね…」


遠慮がちながら、ピーターにまで言われる始末。


「っるせぇ…」

「ご、ごめん………」


吐き捨てるように言うと ピーターは慌てて謝罪の言葉を口にした。


「いや、悪かった…」


オレ、なにやってんだよ。
ピーターに八つ当たりするなんて―――…


「らしくないね。」


思考を読み取った、柔らかな声音の先を追う。
魔法史の時間、アヤメが座っていたソファの肘置き。リーマスはオレを見下ろすようそこにいた。

余裕な素振りで足を組む。
穏やかな微笑みを湛えて、見慣れた白い指先が銀紙を剥いていく。


「よく食べるよね、リーマスも…」


懲りずに言うピーター。


「うるさいよ、ピーター」

「ご、ごめん…」


「なんてね、シリウスの真似。」


ちょっかいを掛けるリーマス。


「からかわないでよ!リーマス」

「ふふっ、ごめんごめん」


それをみてケラケラ笑うジェームズ、とオレが居るはずだった。


笑えねぇ。笑えるかよ…
銀紙から顔を出したのは、やっぱりアイツが肌身離さず持ち歩いている茶色いもの。


そうだ、アレはアイツのチョコレートの味だ―――…


いや、まさか………。


慌てて体を起こすオレに、ジェームズとピーターだけが驚いたような顔をしていた。
 
 
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