1/27ーにじゅうななぶんのいちー

□塩沢 歩
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クラス替えが終わり、
落ち着いた空気が流れ始めた頃。
俺達の学校は文化祭が初夏ごろにあり
今日の授業はそれで持ちきりだった。




「えーっと、それでは文化祭なんですが…」



ホームルームの時間を仕切っているのは
柏木と山崎だった。だが、正確に言えばほとんどを柏木が担っていて、山崎は隣で板書をしていた。


次々に黒板になぞられていく文字を
俺は、今日の異常な暑さで朦朧とした頭で
眺めていた。



俺は、今日が早く放課後にならないかということを考えていた。
早く自分のグローブをはめて、あの白い球を遠くまで飛ばしたいと考えていた。




外を見ると、照りつく日差しは変わらず、
木々までもが限界を上げているような気がした。
後ろの席の須藤学は目を真剣にして眺めているが、知らない間に埋まっていく黒板には俺は興味はなかった。




そんな時、俺が待ち望んでいたチャイムがなり、腕が自然と鞄に伸び、煩わしい終礼が終わると、他のクラスの奴と話している学を呼び、グラウンドに急いだ。



「おい、歩聞いてたか?」
「何を?」



ウォーミングアップの最中に学は俺に話しかけた。



「今日の文化祭のこと」
「いや…」

学からは笑いが一気に零れた。


「歩はホントに野球馬鹿だよな」
「で、文化祭がどうしたんだ?」
「クラス店はさ、お好み焼きだって」
「へえ」
「で、ステージがダンスだって」

俺は全く聞いていなかった文化祭のことだが、去年とたこ焼きがお好み焼きに変わっただけだなと感じた。



「俺はたこ焼きの方が好きだ」
「だよなー、俺もたこ派」
「たこ派って違うだろ。お好み焼きなんだから」



くだらない話をしながら終えていく準備の中、俺はふと、演劇部が練習しているのが見えた。



「おい、歩どうした?」


ぼやっとしていた俺に学が驚いたように問いかけていた。



「珍しいじゃん。お前が部活中にぼやけるの」
「いや、演劇ってこんなところで練習してたっけ?」
「ああ、たまにな。…なんだよそんなに気になるのか?」
「何言ってんだ。こいつ」



俺を茶化すことを面白がっている学に少しイラついたが、俺は演劇部の深山凛子と去年の文化祭で照明係で一緒になったことがあった。




「なんで、ステージ立たないんだ?」
「え?」
「いや、お前、演劇部なんだろ?」



そういうと凛子はなんだか恥ずかしそうに喋りはじめた。



「演劇って、そんなに舞台に立つイメージある?」
「まあ、俺はよくわかんないけどな。あるよ。そういうイメージは」



うちの高校の演劇部は県大会の常連校ということもあり、文化祭のこういったステージには積極的に関わる奴が多いし、いい案を出して盛り上げられる奴が多い。



「うーん、私ね、みんなみたいに上手に出来ないんだ。言い訳なんだけどね。」
「へえ」
「正直、ダンスも上手じゃないし、今年の文化祭でも役貰えなかったんだ」



なんだか寂しそうな声で俺は、咄嗟に話を終わらせようとした。

「でも、そんな私でも舞台に関われる場所があるんだから、嬉しいよね」


深山凛子が笑った顔を見て心が動いたことを思い出す。
再び見た同じ場所に演劇部の姿はなく、室内に戻っていた。



何を思い出してるんだ。俺は。



球のカーブは弧を描きながら、学のグローブに届く。



「あれ、お前、ちゃんと水飲めよ。顔、赤いぞ」
「気にすんな」


咄嗟に出た言葉と共に再び帰ってきた球を学に投げる。
思っていたより、球は空を抜け、遠くにいった。
文句を言いながら取りに行く学に謝りながらも、暑さとは違う熱を隠すために野球帽子に力を込めて下に引いた。







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