1/27ーにじゅうななぶんのいちー
□佐藤 明美
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忘れ物を取りにきた教室にいたのは
机に突っ伏した優希だった。
「ゆっきー!」
後ろからでも落ち込んでいると分かる背中に私は思いっきり飛びついた。
「わっ!なんだ明美か。」
「うん」
「あれ?明美、部活は?」
「ああ、忘れ物取りに来ただけだから」
ほら、と明日の宿題のプリントを優希に見せた。
「ちゃんとやりなよ。明日こそ見せないんだから」
えーっと声を上げると優希の怖い顔が見えた。
「そういえば、どうして優希はこんな時間にいるの?」
話を変えるように問いかけると、
落ち込んでいた原因はそれと言わんばかりに話始めた。
「私、はずれくじ引いたんだよ!」
「えっ…はずれくじって…もしかして文化祭実行のこと?」
「うん。いや、正確に言うと山崎と一緒だからかな。」
「いいじゃん。別に。結構優しいよ山崎」
そういうと優希はちょっと間を置いて
答えた。
「知ってる」
なんだか変な優希だ。
いつも優しいし、男子とも上手に付き合ってるくせに、なんで山崎が嫌なのか理由が分からなかった。そんな時上を見上げると、壁時計が目についた。
「あ、そろそろ部活戻んなきゃ」
「やっぱり吹奏楽って大変なんだね」
「うん、もう大会に向けての練習!」
ちょっとびっくりしている優希を見ながら、私はプリントを持って教室の扉を開けた。
部室に駆けていると首に掛けているサックスのストラップが揺れた。やっぱり、サックスがないと軽い分落ち着かないそんな時、見知った人影を見つけた。
「あっ!凛子じゃん」
「明美ちゃん」
少し大人しい凛子は私のことをまだ「ちゃん」付けで呼んでいる。なんだかいつも寂しくなるのだけど、凛子だから仕方ないかなと思っていた。
「部活?」
「…うん。新歓の劇の台本を考えてるんだ」
「へえー、あっ!いつ?私、演劇好きなんだよね。特に凛子が演じてるの。二年が見てもいいんでしょ?」
「うん、大丈夫だよ。でも、まだ詳しく決めてないんだ。」
「そっか。じゃ、決まったら教えてね」
「うん」
じゃあねと私が言おうとした瞬間、後ろから声が聞こえた。
「凛子」
「あっ、真子」
私は少し動揺した。
凛子が他の人を呼び捨てしていることに。
「凛子、あっごめん。話切っちゃった?」
私は、急いで自分を引き戻して答えた。
「ああ、いいの。私ももう行くし」
「あれ、もしかして同じクラスの?佐藤さんだっけ?」
私は、この真子さんのことを覚えていなかった。
多分、1年の時は違うクラスだったと思う。
「そうだよね。明美ちゃん」
凛子に問いかけられ、私はまたその呼び方に心が痛んだ。
「あ、ごめんね。私、まだクラスのひと覚えてなくて。」
「いや、私もそんなに目だつ方じゃないから」
「そんなことないよ。私がいけないんだし。えっと…」
「私、松川真子。よろしく」
私は何と無く今の心を隠して笑いながらよろしくねと言った。
「明美ちゃん、真子も演劇部なんだ」
「ああ、そうなんだ。」
嬉しそうに言う凛子を見ると、私は余計に壁を感じた。
「じゃあまた」
私はこれが何の気持ちなのかもわからないまま、
重くなった気をサックスで軽くしたいと思った。
部に戻ると、楽器の音が盛んに響いていた。
その中に加わると、私も私じゃないかのように感じられた。私は佐藤明美ではなくて、このサックスと一つになれる。余計なことを考えずにいられた。
凛子は私のこと嫌いなんじゃないだろうか。
そんな考えを息で吹きとばしていた。