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□アシスタントは見た!!B
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皆さまお久しぶりです。まさかの3回目の登場、宮原ケイでございます。超人気少女漫画家、吉川千春先生の許でアシスタントをしています。

前回同様、私の趣味経歴その他諸々に関しましてはここでは割愛させて頂きます。どーしても知りたいというそこのお嬢様、ぜひ第1作目である【アシスタントは見た!!】をご覧ください。





さて。今日は平日でございますが、吉川先生の仕事場は閑散としております。いつもに増して地獄絵図だった今回の修羅場は、5日前に無事(?)幕を閉じました。

そんな修羅場を潜り抜けた後、いつもの私だったら今頃は自宅でのんびりすごしているはずなのです、が………………







「頼む宮原さん、この通りだ。」

「ケイちゃん、お願いっ!!!」

「え、っと………………」





暖かな日差しの差し込む広いリビング。

テーブルの上には美味しそうなシブーストと、ジノリのカップに入った香り高いアールグレイ。

目の前には…………………………………………吉川先生と羽鳥さんの頭部。


なぜか私は、吉川先生の家でこのカップルに頭を下げられていた。




「こんなことを頼めるのは、君しかいないんだ。」

「そうそう!!お願いケイちゃん、俺たちを助けて!!」

「そ、そんなこと言われても……………」








締切も終わり他のバイトも休みである今日は、ずっと惰眠を貪る予定だった。

だけど今から1時間ほど、いつだったかのデジャヴのように私のケータイが鳴った。

今回は吉川先生からではなく、羽鳥さんからの電話だった。あら羽鳥さんからだわ珍しい。睡眠妨害をされたことに若干イラッとしつつも(本人には内緒ね!!)、『ハイもしもし宮原です。』と電話に出てしまったが運の尽き。

『今すぐ吉川千春のマンションに来てくれ』との言葉だけ残して、羽鳥さんは電話を切った。

この時、何となく予感した。













あぁ……また一騒動起こりそうだな、と。












そんなこんなで、いま現在私は吉川先生のリビングにいるのだが…………、








「け、ケイちゃ〜ん…………」


吉川先生はその黒くて大きな瞳を潤ませて私を見る。私の名前を呼ぶ声も、まるでしょげている子供のように震えている。


………………ごめんなさい羽鳥さん。私いま、先生が世界で1番可愛く見える。超抱きしめたい、ギューーッって。私に罪はない、30手前の男子のクセにこんなに可愛い吉川先生が悪いんだ。

こんな可愛い表情と仕草と声で頼み事やらおねだりやらされて、断れる人間がこの世に存在するとは思えない。吉川先生に溺れ切っている羽鳥さんに心情がよく分かる。しかし吉川先生はこの最強コンボ技を“無自覚で”やっているからタチが悪い。とんだ小悪魔だぜこの野郎。


だけどね、先生。いくら私が先生のことを尊敬してても、いくら先生が可愛過ぎても。



世の中には“聞けるお願い”と“聞けないお願い”があるんですよ。





「吉川先生も羽鳥さんも、馬鹿なこと言わないで下さい!!!!無理に決まってるじゃないですか…………………………、私が羽鳥さんの“恋人”になるだなんて!!!!!!」



















何故こんな頼み事をされるような状況に陥ったのか、事の経緯はこうだ。



5日前──つまり校了直後、丸川書店に短期バイトで入っていた大学生の女の子が羽鳥さんに一目惚れして、告白してきたらしい。

『えっ、大学生って未成年!?羽鳥さん犯罪者!?』

『いや…、相手大学3年で21歳だから。』

というやり取りがあったのはご愛嬌。

まぁ………………………、その女の子の気持ちは分かるわよ。羽鳥さん、カッコイイし。その年頃の女の子(って言っても私と3歳しか差ないけど)って、オトナの男に憧れる時期だし。羽鳥さんって“オトナの男の色気”を無駄に垂れ流してるし。


だけど羽鳥さんには“吉川先生”という長年の苦労の末に結ばれた最愛の恋人がいるわけで。若い女の子にコクられたくらいで揺らぐような、そんな軽い想いではない。仮にもし羽鳥さんがそんな8歳下の小娘にクラッときちゃうような単なるロリコン野郎だったら、容赦しない。吉川先生に変わって後ろから蹴っ飛ばしてやる。


もちろんそんな心配が杞憂であることは必然で、羽鳥さんはその告白を丁重にお断りした。女の子は泣き出してしまったらしいが、仕方ないわよお嬢さん。羽鳥さんは吉川先生にもう首ったけのメロメロの……………………ダメだ、自分の語彙の少なさが情けない。とにかく、羽鳥さんは筆舌し難いくらいに吉川先生に惚れてるんだから。諦めなさい。


ここまではきっと羽鳥さんにとっては日常茶飯事な出来事だろう。何か特筆するとしたらそうね……、吉川先生がヤキモチ焼くくらいかしら。


でもそれだって…………………








『馬鹿だな吉野。俺にはお前だけだって、いつも言ってるのに。』

『で、でも………やっぱり俺、不安で………………』

『じゃあ………、こうしたら分かるか?』

『ンっ……………』

『………このキスでも、分からない?』

『……ううん、……………分かった。』

『フッ…………愛してるよ、千秋。』

『トリ……………ア、ん。』







………ふふっ、ぐふふふふ。


可愛いわ……………、嫉妬してる(妄想の)吉川先生。

そのまま仲直りの“にゃんにゃん”をすればいいわ、てか寧ろシろ。


まぁ、こんな私の妄想は置いといて。話を元に戻そう。


本来ならばたかが羽鳥さんが女の子から告白されたくらいで、このカップルはここまで思い悩まない。




事件が起こったのは羽鳥さんが告白された3日後、今日から2日前。



『ワシの孫に恥をかかせた上に泣かせた輩は、どこのどいつじゃっ!!』



そんな怒声を轟かせて丸川書店の玄関ロビーに乗り込んできたのは、羽鳥さんがフッた例の女子大生のおじい様。



普通ならばただの“迷惑じーさん”としてお引き取り願うのだが、なんとここで丸川書店専務取締役の井坂龍一郎(絵理お姉ちゃんから話は聞いたことある、“落としの井坂”って人)がわざわざおじい様の対応をした。



何故かって?



なんと!!このおじい様、丸川書店が長年融資を受けている某大手銀行の頭取だというではないか。



つまり羽鳥さんがフッた女子大生は、由緒正しき正真正銘の“お嬢様”だったのだ。





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