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□2011年11月22日のアレ
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※注意勧告


高律で付き合ってる設定です。

が、律っちゃんのキャラが無限の彼方に吹き飛んでます。迷子です。遭難です。完全に着地点を見失った状態です。

それでもバッチコイッ!!なお嬢様に限り、下にスクロールぷりーず。



───────────────




本日11月22日は……………そう、あの日。

巷でいう【いい夫婦の日】だ。


国家が制定した記念日、というワケではない。おそらくどこかしらの企業かマスコミが煽って作り上げられた日だろう。

バレンタインデーとかホワイトデーとか、最近あったモノで言えば【ポッキーの日】もソレに該当すると俺は分析する。

だけど別に、悪い日ではないと思う。今朝も母から『今日はいい夫婦の日だから、お父さんとホテルディナーに行くの。』と嬉しそうなメールが届いたし、丸川書店の既婚者組も『たまにはアイツに何か買って帰るか』だとか『今日くらい早く帰って豪華な夕飯作ろうかしら』だとか、どことなく楽しそうだ。


だが、ソワソワしているのは別に既婚者組だけではない。結婚はしていなくても、恋人がいる人間にとっても今日はやっぱり気になる日だ。


お昼休みに自販機に飲み物を買いに行ったら、木佐さんが誰かと電話していた。遠かったから会話の内容までは聞こえなかったけど、最後に『だっ、誰が夫婦だバカ雪名!!』と顔を真っ赤にして叫んでいたのを見て、きっと電話相手の“ユキナ”さんは木佐さんの恋人なのだろうと思った。



その後編集部に戻ろうとしたら、途中の通路の隅で羽鳥さんも誰かと電話していた。(こう言っちゃ失礼だけど)普段はにこりとも笑わず淡々と仕事をこなす羽鳥さんが、珍しく優しげな笑みを浮かべていたから正直ビックリした。

『今日の夕飯は何が食べたい?今日は特別な日だから何でも作ってやる。』なんて言っていたから、きっと羽鳥さんも恋人と電話していたんだと思う。


最後に通りかかった喫煙所では、横澤さんも誰かと電話していた。

『“いい夫婦の日”?んなの知るか、第一俺とあんたは夫婦なんかじゃ………………………ひよの名前を出すなんて卑怯だぞ!!あぁもう分かった分かった!!仕事終わったらそっち行くから!!』なんて会話を聞いて、横澤さんの電話相手も彼の恋人なんだなと思った。そういえば、この前高野さんが『横澤にも春が来た』とか何とか言ってたっけ?




兎にも角にも、【いい夫婦の日】は必ずしも世の夫婦だけに適用されるイベントではないということだ。


そう考えると頭に浮かんできてしまうのは……………………………高野さんのこと。


………高野さんも、何か考えてくれているのかな?うん、きっと考えてくれている筈だ。仮にも少女漫画雑誌の編集長なんだし。それにああ見えてあの人、意外とロマンチストだし。

お洒落なレストランで食事だとかプレゼントだとか、そんなかしこまったモノはいらないけれど、せめて仕事が終わったらどちらかの家に行ってゆっくり過ごしたいなぁ…………とか。高野さんの作ったご飯が食べたいなぁ…………とか。久し振りに……い、イチャイチャしたいなぁ………とか。



「フフッ…………ふふふ。」

「なぁにニヤニヤしてるの、小野寺君?」

「ハッ、み……美濃さん!!す……、すみません。何でもありません………。」



そんな甘い妄想は取り敢えず封印して、だけどちょっぴり期待して。


俺はなんとか、その日の業務を終えた。












………ただいま、午後11時50分。

あと10分で【いい夫婦の日】が終わるというのに…………俺は自分の家のソファーにひとりで座っている。


仕事が終わって、高野さんとロビーで待ち合わせした。

一緒に電車に乗って、一緒にマンションまでの坂道を登った。


坂道の途中で手を握られたから、やっぱり今夜は“そういう日”なのだと少し緊張した。

だけど部屋の前に着いた途端



『じゃ、今日はお疲れ。』

『へっ…………た、高野さん、今日は…………』

『おやすみ。』


今までの高野さんからは想像もできないほどあっさりと、俺の手を離して自分の部屋へ入ってしまった。







「…………でも、よくよく考えたら、今日は高野さんにとっては複雑な日だよな…………。」


ぽすっとソファーの背もたれに体を預け、天井を見る。



高野さんのご両親は、お世辞にも“いい夫婦”とは言えなかったと思う。そして、高野さんはずっとソレを間近で見てきて…………ずっと傷ついてきた。




愛を知らなくて、愛に飢えていて。

子供が1番間近で見て育つ筈の“夫婦の愛”を、彼は見ることなく大人になった。












────午後11時52分




やっぱり、彼に【いい夫婦の日】を期待するのは無神経過ぎたのかもしれない。



────午後11時56分




でも、本当にこのままでいいのかな?

今、高野さんのそばにいるのはご両親じゃなくて…………俺なのに。






「っ!!」



────午後11時58分




ピンポン、ピンポンピンポンピンポン


「高野さん、高野さん!!開けて下さい!!早く開けて!!」


インターホンを連打するだけじゃ足りなくて、俺は力いっぱい高野さんの家の扉を拳で叩く。



「おい、どうしたこんな夜中に。てか、そんな大声出したら近所迷惑に────」

「高野さんっ!!」


扉が開いたのと同時に、強引に部屋に侵入する。

そして、高野さんの腕の中に飛び込んだ。


「…………小野寺?」


俺の突拍子もない行動に、高野さんも困惑気味だ。


けど、そんなこと今はどうでもいい。


早く、早く彼に伝えなければならないことがある。





────午後11時59分



「あ、あの!!高野さんは昔その……イロイロなことがあったから“いい夫婦”ってよく分からないかもしれませんけど……、俺が教えてあげます!!」


「え………」



「“いい夫婦”を、俺が高野さんに教えてます!!高野さんが嬉しい時には一緒に喜ぶし、高野さんが辛い時には一緒に悲しんで、その後支えます!!高野さんにもう寂しい思いはさせないし、これからもずっと一緒にいますし……………だからその……、ふ、夫婦っていいもんですよ!!」




────午前0時


(……と、とんでもないコト言っちゃった。)



今更ながら、自分の発言に一気に羞恥が襲ってくる。

しかも、高野さんは無反応────────



「………………ブッ。」


「え…………?」


………“ブッ”?

もしかして高野さん………吹いた?


「ブハハハ!!お、お前夜中に奇襲訪問してきたかと思えば、何を急に!!ぎゃははは、ひーっ腹痛てー!!ハハハハハハハハハ!!」


「な……、何なんですか!!人が真剣に悩んで出した結論にそんな大笑い………………、もういいです!!帰ります!!」


怒りと恥ずかしさを抱えたままドアノブに手を掛ける。


だけど────────




「ちょっと待てよ。」

「え……、ってウワッ!!」


グイッと腕を引かれて、再び高野さんの腕の中。



「ちょっ、離せ、離して下さい!!俺いま怒って………」

「ありがとう。」

「っ!!」


耳許で囁かれた、甘い声。

「あの………」

「いや、すまなかった。笑ったのは別にお前のことを馬鹿にしたワケじゃないんだ。『一緒に喜ぶ』とか『一緒に悲しむ』とか『寂しい思いはさせない』とか、あんまりにも真剣に言うお前が可愛くて。それに、どーせ【いい夫婦の日】について俺が親のことで悩んでるとか思ったんだろ?」

「………………はい。」

「ガキじゃあるまいし、今更親のことなんか気にしねぇよ。」



『だけど……』と高野さんは続けて



「ん…………」

「お前の言葉、すごく嬉しかった。」


優しくキスをしながら、そう言った。








「あぁ、言い忘れてた。」

「何をですか?」



あのあと



日付は変わってしまったけど、俺の希望通り高野さんの作ったご飯を食べてまったりイチャイチャしていたら、急に高野さんが口を開いた。



「何で俺が【いい夫婦の日】を祝わなかったと思う?」


「え……、えーっと…………………わかりません。」

「それはだな………………」



次に高野さんが囁いてきた言葉は……………………………、俺の心臓を壊すのには充分過ぎる威力を持っていた。















『今更祝わなくったって、俺たち既に充分いい夫婦だと思わないか?』







→あとがきという名の謝罪会見






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