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□全部、君のせい。
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「あ、トリぃ〜!おかえりなさぁ〜い、ウフフフフフ………ヒック。」

「……………吉、野……?」

「そぉだよ〜…よしのだよぉ〜…ヒック。なに突っ立ってんだよぉ〜、一緒に飲もうぜぇ………ヒック…。」


羽鳥芳雪、29歳。

仕事も終わり家に戻ると……………………………………………………………………………………何故かベロベロに酔っ払った酒臭い恋人が出迎えてくれました。




幼馴染み兼担当作家兼恋人の吉野千秋は、おそらく合鍵を使って俺の家に上がり込んだのだろう。

いやいや、今はそんなことはどうでもいい。問題なのは─────────



「なんだ…………、この酒の量は……………………。」

「んーとねぇ…………………………、
なんだか今日は飲みたい気分だったからぁ……いーっぱい、買ってきたのぉ〜。トリの分も買ってきたよぉ〜。」

缶ビールを片手に『えらいでしょ?褒めて褒めて、にゃはは〜。』と笑う吉野。今の会話のどこに褒める要素があったのか、皆目見当がつかない。むしろ、今から説教をしてやりたいくらいだ。



テーブルの上を埋め尽くすビールの空き缶。それだけじゃない。フローリングには、基本ビール派の俺も吉野も飲まないようなブランデーのボトルが置いてある。
銘柄からみて、それなりの高級品。しかも中身の黄金色の液体が、ボトルの3分の1ほど減っている。まさかコイツ、ブランデーを飲んだ後にビールにまで手を出したのか!?


「まあまあ、トリも座って座って〜………………ウィック…。」

「ちょっ、うわっ!!」


ぐいっと吉野に手を引かれ、ソファーの上に腰を降ろす。


「はい、これトリの分ね!今日も1日お疲れしゃまでした〜。じゃあ、カンパーイ!」


缶ビールを無理矢理握らされ、吉野は一方的に飲み会を始めてしまった。




















「吉野……もうそろそろやめとけ。」

「やぁだ〜、もっと飲むぅ〜!」

飲み会が始まって30分。

コイツの体のことを考えても、そろそろやめたほうが良い。急性アルコール中毒にでもなったら大変だ。



「そういえばお前、何で今日先に帰ったんだ?」


今日は夕方から吉野の─────吉川千春の作品のドラマ化の件で丸川書店で打ち合わせがあった。


『トリが適当に決めてくれていい、俺行きたくない』などとぬかすこの引きこもりを太陽の下に引きずり出すのに、どれほど骨が折れたことか。



打ち合わせも滞りなく済み、残る俺の業務は簡単な事務処理のみになった。

だから言ったのだ、『仕事が終わったら、一緒に外食でもしよう』と。

ついでに映画もどうだ?と尋ねたら、吉野は顔を真っ赤にして頷いてくれた。




『なんか……………デートみたい、だな………。』


俯いてそう呟いたコイツが、とんでもなく可愛いと思ってしまったのだから俺もよっぽど重症だ。


それに、これはデート“みたい”ではない、“デート”なのだ。




残りの仕事が終わるまで1時間ほどかかると言ったら、吉野は『じゃあ俺、ロビーでコーヒーでも飲んで待ってる』と言って会議室から飛び出していった。







だけど1時間後。

吉野はロビーには居らず、受付嬢に『吉野様と仰る方から羽鳥さん宛てに“先に帰る”との言伝てを預かっております』とだけ伝えられた。

吉野のマンションに向かうも、アイツは留守で。

もしや……………、と思い自分の家に戻って現在に至る、というワケだ。





「なぁ、どうしてだ?」

「……………。」

「…………吉野?」

「…………、教えない。」

「えっ?」

「トリには教えてあげない!」



俺が尋ねると、吉野は途端に不機嫌になって、ぷいっと俺から顔を逸らした。

酔っているせいか、吉野の行動のひとつひとつが幼い。

察するに、多分たいした理由はない。だけどコレが後々何かの火種になったら、それはそれで面倒だ。やはり今解決しておこう。


「吉野、俺が何かしたなら謝る。だから言ってくれ。」

「………ヤだ。」


いっこうに口を割ろうとしない吉野。

本来ならば実力行使に出るところだが、如何せん吉野が不機嫌な理由がわからない。様子を見る限りどうやら原因は俺にあるようだから、ヘタな行動には出られない。ここからは我慢くらべに持ち込むしかないようだ。


「吉野。」

「…………やだ。」

「吉野。」

「イーヤ!!」

「………千秋。」

「っ……………………。」

「謝るから。だから教えてくれ、千秋。」

「……全部、トリが悪いんだからな。」


ぷうっと頬を膨らませて俺を睨み付ける吉野。なんなのだ、この殺人兵器並みの表情は。状況が状況だったら、とっくの昔に押し倒している。




「今日ね……、自販機で飲み物買ってたらね、近くで女の子の社員さんがお喋りしてたの………。」

「あぁ。」

「『エメ編の皆さんカッコいいー!』って…………言ってたの………。」

吉野はそこまで言うと、また口を閉じてそっぽを向いてしまった。


「それで?その女子社員はなんて言ってたんだ?」

所属している自分が言うのも憚られるが、確かにエメ編のメンバーはレベルが高い。顔で採用してるなんて噂されるくらいだ。おおかた、ミーハーな女子社員が自分たちのことをアイドル感覚で話題にしたのだろう。




「……………──りのこと………」

「え?」

「トリのこと、カッコいいって、優しいって、素敵だって……………『結婚してほしい』って」


「はっ?…………痛っ!!こら吉野!!ビール持ったまま人を叩くな!!」


吉野は急に俺をポカポカと殴ってきた。
もともと腕力のないコイツに殴られても痛くも痒くもないが、ビールが缶の中でちゃぷんちゃぷんと揺れて溢れそうになる。




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