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□アシスタントは見た!!A
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はじめましての方もお久し振りですの方も、皆さま纏めてこんにちは。
まさかの再登板、宮原ケイでございます。
本来ならばここで自己紹介等をするのが筋でございますが、さして面白いお話ができるワケではないのでその辺りは割愛させていただきます。
それでも私について詳しく知りたい!!
というソコの貴女。
ぜひとも、前作【アシスタントは見た!!】をお読み下さいませ。
さてさて、今日は誠に気持ちの良い日です。水彩絵の具を塗り広げたような青空。
風も心地よく、気温も快適。
まさに、夏の終わりと秋の始まりに相応しいお天気といえましょう。
そういえば今朝の天気予報で、今日は全国的に快晴だそうです。良いことですね。
なのに…………、なのに!!
「…………。」
「…………。」
「……、ねぇケイちゃん。何でこんなに空気が重いの?」
「…………間違いなく、先生のせいです。」
私が今いるこの部屋─────吉川先生の自宅兼作業場には暗雲がたちこめ、警報レベルのどしゃ降りと凍死レベルのブリザードが吹き荒れ、お世辞にも快適とは言えません。
そんな精神的苦痛を与える異常気象の原因は、それこそ少女漫画のヒーローにも劣らない美男子、羽鳥さんと柳瀬さんでありました。
「………何か言ったか、吉野。」
「えっ!?あ、イヤなんでもない!!」
ヒッ!!怖っ!!羽鳥さん怖っ!!
先生に対して(修羅場中以外で)こんなに不機嫌な羽鳥さん、初めて見たよ!!
「てゆーかさ、何で休日にコイツの顔なんか見なきゃいけないワケ?」
「奇遇だな柳瀬、俺も今そう思っていたところだ。」
「ちょっ……トリ!!優も煽るなよ!!
な、な?仲良く仲良く………」
『お前のせいだろ。』
仲裁に入った先生に、羽鳥さんと柳瀬さんから痛烈な一言。しかもシンクロで。
「ったく………、千秋が抜けてるのは昔からだけど、まさかここまでアホだとは思わなかったぜ。」
「まったくだ。お前は締切どころか人との約束でさえ守れないのか?」
先程からチクチクと繰り返されている、2人の吉川先生へのお説教。
ちなみに今の席順を説明させてもらうと、L字型のソファーの短い方に柳瀬さん。長い方には私と吉川先生が隣同士で座っていて、柳瀬さんと向かい合う位置に置いてある1人掛けのソファーに羽鳥さんが座っている。
つまり吉川先生と私は、右側からも左側からも怒りと殺気をモロに受けているワケです。
…………え?何故私がここにいるかって?何で羽鳥さんと柳瀬さんが怒っているかって?
よくぞ聞いてくれました。今からそれを説明いたしましょう。
そもそもの始まりは、今から1時間前に遡ります………。
─────────
──────
昨日は、高校の同窓会だった。場所は普通の居酒屋。
卒業して6年も経てば、当時は仲の悪かったギャル系グループにいた子とも恋バナに花を咲かせながらお酒を酌み交わし、
修学旅行の時に告白されたけどフって以来気まずかった男子とも、『あの頃は私たちも若かったね〜』と言って笑い合える。
それが楽しくて仕方なくて、結局帰宅したのは朝方の5時30分。メイクを落としたりシャワーを浴びたりして、やっとベッドに潜り込めたのは6時を少し回った頃だった…………………。
《〜♪〜♪》
遠くでケータイの着信音が聞こえる。
このメロディーは、アニメ版『純愛ロマンチカ』のOPだ。電話かな?
だけど正直起きたくない。飲み過ぎたのか、頭が痛い。今日はアシも他のバイトも無いから、この電話も多分緊急じゃないだろう。
いいや、シカトしちゃえ…………。
…………、止まった。シカトしてごめんね、美咲。
そんな小さな謝罪の後に、もう一度布団を被る。ケータイでちらっと確認したら、昼の12時を少し過ぎた頃だった。
まぁ、今日はただひたすら寝る日ってコトで。
そう思って瞳を閉じようとしたら……………
《〜♪〜♪》
またもや美咲の登場。
アンタ、秋彦さんの相手してなくていいの
!?
布団の中から手探りでケータイを探しだし、よく相手も確認せずに通話ボタンを押した。
「ふぁ、い………もしもし?」
《ケイちゃん!?ケイちゃんだよね!!あー、良かった繋がったぁ〜〜。》
「えっ、吉川先、生……ですか?」
電話の相手は、まさかの吉川先生。
だけど、なんかちょっと様子がおかしい。
それに微かだけど、後ろのほうから怒鳴り合う声が聞こえる……………。
「あのぉ〜……、先生──────」
《お願いっ!!すぐに家来て!!》
「……はいっ!?」
突然の先生からの要求に、思わず動揺を隠せない。
だって私いま起きたばっかで髪はボサボサだし、二日酔いで頭は痛いし。
とてもじゃないけど、外出できる状態ではない。
《ごめんっ!!説明してるヒマない!!おおお願いだから早───》
《吉野、何をしている。》
先生の言葉を遮るように、羽鳥さんの声がした。
しかも……………、かなり低い。
先生も突然の羽鳥さんの登場に驚いたようで、『ヒッ』という先生の小さな悲鳴と『ゴンッ』というケータイが床に落ちる鈍い音が私の耳にも伝わってきた。
「先生………先生!!ちょっと、大丈夫ですか!?」
《あー、もしもし千秋の友人の者ですが。》
次に先生の電話に出たのは────柳瀬さん!?
《すいません今こっちかなり立て込んでるんでまた改めてかけ直して下さい、じゃっ。》
どうやら柳瀬さんは電話相手を確認しなかったようだ。
早口で用件だけ述べると、一方的に電話を切ってしまった。
しかもこちらも──────超機嫌悪そうに。
「……………、ヤバい」
私はベッドから飛び起きるて、着ていたジャージを脱ぎ捨てた。
洋服箪笥の1番手前に入っていたデニムとTシャツを着て、ボサボサの髪はポニーテールにして誤魔化した。
メイクもほぼすっぴんに近い状態。悠長にコンタクトなんか装着している時間はない。
何でこんなに慌てて出掛ける支度をしているのか、自分でもわからない。
そもそも、アチラがどんな状況かも不明だ。
だけど、ただひとつ分かっていること。
このままでは────────────────吉川先生の命が危ない。