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□勝てない勝負
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カーテンの隙間から溢れる光に、思わず目を細める。
ベッド横のチェストの上に置いてある時計は、もう11時をさしていた。
どうやら俺たちは、朝食も食べずにずっと眠りこけていたらしい。
やっと終わった修羅場。
『漫画家と編集者』から『恋人同士』に戻った、昨日の夜。
昨日の吉野は疲れと共に性欲も溜まっていたようで、俺の作ったメシを食べて一眠りしたらすぐに俺を求めてきた。
今俺の腕の中にいるコイツは、なんともまあ穏やかで能天気な寝顔をしている。
数時間前の、あの艶っぽく乱れた表情からは到底想像できない。
取り敢えず、ベッドから出て服を着よう。
もう昼食になってしまうが、吉野が目を醒ます前に味噌汁と卵焼きくらいは作っておきたい。
「っん…………、トリ?」
脱ぎ散らかして皺がついてしまったシャツを羽織っていると、隣の吉野が目を醒ました。
「あぁ、起きたか。おはよう。」
「お…………、はよ。」
恥ずかしいのか、吉野はもぞもぞとシーツの中に潜る。
「身体、つらくないか?」
「………っ大丈夫。」
くしゃりと吉野の柔らかい髪を撫でながら聞くと、吉野は舌足らずな口調で答えながら、トロンと瞼を落とす。まだ意識がはっきりしていないようだ。
「昼メシ作ってくる。お前はもう少し寝てていいぞ。」
吉野の頭から手を離し、ベッドから降りようとする。
すると──────
「…………まだ、いい。」
吉野が、俺のシャツの裾を掴んで引き留める。
「………吉野?」
「メシはまだいいから………、だから………もう少しだけ………。」
吉野は無意識だろうけど、好きなヤツから上目遣いでそんな事を言われて、その気にならない男などいるワケがない。
「………それは、お前から誘ってもらったと解釈してもいいのか?」
羽織っていたシャツを再び脱ぎ捨て、俺もベッドに潜り込んで吉野を抱きしめる。
「ちがっ、違う!ただその……………………………抱っこ、して欲しい。」
吉野は恥ずかしそうにそう言うと、俺の首に腕を回して身体を寄せてきた。
確かに、昨日は俺も調子に乗って4回もヤってしまったから、吉野の体力もほとんど残っていないだろう。
俺はあと1回くらいならいけそうな気がするけど、こんな素直な吉野は珍しいから、それに免じてコイツの我が儘を聞き入れる事にした。