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□その匂いを抱きしめて
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ない。
いつもあるべき場所に、あるべき物がない。
自分で言うのもアレだが、生来几帳面な性格ゆえ、物を無くすといった事を経験したことがない。
まぁ、さして高価な物でもよく使っていた物でもなかったから、いつの間にか『無くなった』という事実すら忘れていた。
その時の俺は、目下に迫ってきた『周期』のほうに気を取られていたから。
その紛失物が見つかったのは、周期明けのこと
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……疲れた、本気で疲れた。
二十日大根も無事に(と言っていいかは疑問だが)収穫を終え、例に漏れず俺は吉野のマンションにいた。
両手には食材が大量に詰まったスーパーの袋。
どうせアイツは、ここ数日まともな食事をとっていないはずだから。
合鍵を使って部屋に入る。
「……吉野?」
いつもならば玄関もしくはリビングで生き倒れている吉野は、今日は珍しく見当たらない。
念のために寝室をチラッと覗いたら、無駄にデカいキングサイズのベッドに横たわる吉野の姿を確認できた。
取り敢えずひと安心。俺の言いつけをしっかり守って、ちゃんとベッドで寝てくれている。
床やソファーで寝たら疲れはきちんと取れないし、何より背骨や骨盤を悪くする。
そんなことを考えながら、疲弊しきった体に最後の鞭を打って吉野の食事作りにとりかかった。