main
□イベントを楽しむにあたって最も大切なのは、空気を読むことだと思う。
1ページ/2ページ
※主に会話文のみ超短文。ご了承ください。
10月31日。
子供たちはハロウィンの本来の目的など知ろうともせずお菓子を無心する本日。
大人は今更、お菓子をねだるようなマネはしません。するゆとりもありません。今日がハロウィンだろうが何だろうが、日々の生活の為に頑張って働かなければなりません。
ですが、稀に例外もあるものです。
ランチタイムも終わり、世間の労働者たちは各々の仕事に取り掛かり始める午後。
丸川書店専務取締役の井坂龍一郎は己の秘書に手のひらを突き出し、こうのたまっておりました。
「Trick or Treat」
「………何ですかその無駄に流暢なイントネーションは」
「ん?さっきたまたまバッタリ出くわした七光りに教わった。やっぱ本場仕込みは違うな。発音マジで外人っぽかった。んなことよりホラ、Trick or Treat」
「まったく………貴方という人は、また小野寺さんにご迷惑をかけて。ですがまぁ………取り敢えず………ハイ」
「………え?」
「………どうかなさいましたか?」
「なに…………、コレ」
「何と言われましても……見ての通り、キャンディーです」
「………なんでお前がこんなのもってんの?」
「今朝から少し喉の調子がおかしくて、出勤途中にコンビニで買ったんです。何のひねりもないハッカ味のキャンディーで申し訳ありませんが、包装紙は季節限定のハロウィン仕様ですのでそれでお許しください。差し上げられるようなモノはコレしかありませんので」
「…っ、………」
「………龍一郎様?どうかなさいましたか?」
「………………か」
「え?」
「朝比奈の馬鹿ッ‼マヌケ‼空気読めよアホがっっ‼」
「はい?何なんですか、いきなり人のことをアホ呼ばわりして」
「知らねーよ‼てめーが悪りぃんだろーがこのボケカス‼………チクショーッ‼」
「ちょ………、龍一郎様どこへ行かれるんですか‼もうすぐ会議ですよ‼」
龍一郎様はお部屋を飛び出してしまいました。
朝比奈さんはただひとり、意味が分からずボー然と部屋で立ち尽くしております。
……………きっと龍一郎様は、朝比奈さんからお菓子を貰う予定ではなかったのでしょう。
どーせハロウィンの悪戯にかこつけて、朝比奈さんと会社でイチャつきたかっただけでしょう。
真相はわかりませんが。
朝比奈さんにも乙女部の編集長や直森賞及び菊川賞受賞作家である某大テンテー様のような悪戯心を持ち合わせていれば。
もしかしたら状況は変わっていたかもしれませんね。
あとがきという名の土下座→