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□同期はつらいよ
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※第3者視点。

※語り部はカナコが個人的に『GJ!!』と何気激しくリスペクトしてるあの方です。

※キャラの口調や性格その他諸々の設定は純度100%カナコの妄想です。ご了承ください。






























「キャッ!!ごめんなさ…………、ぁ」


定時の17時までにキッチリ仕事を終わらせ、後輩とちょっとした世間話をしたり御手洗いに寄ったりとしてからいざ会社を出ようとしたのが、ただいま17時18分。



丸川書店のエントランスでぶつかった相手は、尻餅をついて『痛てて……』と腰辺りを擦っている。


ぶつかってしまった相手を見て、私だけでなくエントランスにいる全員が顔を真っ青にした。


だって何分相手が悪い。あぁ…今の日本が封建時代じゃなくてよかった。世が世なら、私は不敬罪か何かで打ち首モンだ。





「いっ…、井坂専務!!も…っ、もも申し訳ございません!!大丈夫ですか!?」


「痛…ってぇ……、あぁ別に大丈夫……………って、なんだお前か」



私の顔を見た瞬間、井坂専務はヘラッと笑って『よぉ』と軽く手をあげた。








この人の名前は井坂龍一郎。

丸川書店専務取締役というご立派な地位に就き、更には社長の御曹司であらせられる、世が世なら御簾の向こうの御方だ。

すごいのは家柄や地位だけではない。井坂専務サマは“落としの井坂”の通り名を持つ超敏腕、かなりのヤリ手。


専務&御曹司というご身分的にも、社内指折りの実力者という面でも、敵に回したくない。てゆーか敵味方以前にまず、関わりを持てる相手ではない。







だけど私は、実は井坂専務とは割と親しい仲なのだ。



何故ならば………






「あー、丁度よかった。お前今からヒマか?」

「…………、え?」

「俺さー、何か今日は飲みたい気分なんだよ。だからちょっと付き合え」

「………、ハイ?」

「おっ、その顔はヒマなんだな?よーし決まり!!」

「……いやいやいや!!何ですかその無理ヤリこじつけた感アリアリの解釈おかしいでしょ……じゃなくて!!そっ、そんな困ります私ごときが専務とお食事なんて!!」

「まあまあ、そう固くなるなって。気楽にしろよ、元は同じ部署の“同期”なんだからさ」










────そう。

何を隠そう、私は目の前にいる井坂龍一郎専務サマと同じ19××年生まれ。

更に何の因果か入社時に同じ文芸部に配属され共に先輩たちに扱かれ涙と汗を分かち合った、正真正銘の“同期”なのだ。

































「よぉし、だいたいメニューは揃ったな。あ、酒あるか?じゃ、取り敢えず乾杯すっか」

「…………」





何故、私はここにいるのか。

答えは簡単、強引な井坂専務サマに拉致られたからである。


拉致られ連れてこられたのは、丸川書店から電車で3駅先の居酒屋。社長令息の井坂専務が電車に乗るなんて、隣にいた私としてはちょっと意外で笑える光景だった。私の中では、金持ちの移動手段は基本リムジンと相場で決まっているからだ。庶民丸出しの己の発想に、渇いた笑しか出てこない。

更に意外だったのが、連れてこられた居酒屋が全品270円の所謂“激安居酒屋”だということだ。生粋の御曹司といえど味覚は庶民的なのか、はたまたしがない三十路OLである私の懐事情を考慮してくれたのか(後者だったら若干ムカつく金持ちくたばれ)。


取り敢えず目の前には、生中のジョッキが2つと枝豆や鶏の唐揚げといったオーソドックスな飲み会フードが並べられている。





「あのぉ………、井坂専務……」

「あー、ナシナシその“井坂専務”っての。せっかく久しぶりに同期同士で飲むのに堅苦しくてやってらんないよ。昔みたいに“井坂君”でいいぜ」

「そっ、そんなの無理ですよ!!」

「ゴチャゴチャうっせーな。俺様がイイっつたらイイんだよ!!今日は無礼講無礼講。つーワケで………、かんぱーい!!」

「無礼講って、んなムチャクチャな…ってかシカト!?」



部下の意向は完全無視の傍若無人な御曹司サマ。高らかに朗らかに乾杯の音頭。お酒はまだ入ってない筈なのに、何か既にデキあがってるようにさえ見える。


………取り敢えず、腹を決めよう。

もうこうなったら、トコトン付き合ってやろう。

なんてったって相手は“落としの井坂”。ここは落とされたもんだと思って諦めよう。



「………今日はガンガン飲むわよ。覚悟なさい、井坂君」

































……………何だ?

何だ、目の前にいる“コレ”は。


「……………あのさ、井坂君」

「ん〜……………?」

「もしかして……………、酔ってますか?」

「酔ってなンかねぇよ‼…………ヒック」

いやいやいや、酔ってるだろ確実に‼

決して口には出さないけれど、心の中で盛大にツッコミを入れる。

目の前の井坂君は顔は真っ赤で呂律もまともに回ってなくて、テーブルにベタ〜ッと頬をつけている。もしここに日本を含めた世界195ヶ国の人が各国1人ずついたとしたら、きっと195人全員がアンタを『酔っ払い』と判断するだろう。世界共通認識だよ井坂君、アンタはグローバル視点から見ても酔ってるよ。もちろんコレも口には出さない。


「だからさぁ〜………」

ムクッと体を起こし、井坂君は泡がほとんど残っていないビールをチビチビと飲む。

「俺のことがホントに好きなら……ヒック…、アイツもっとそれを態度で示すべきだと思うっっ‼」

「はぁ……」

さっきまでダラダラでグデグデだったクセに、唐突に眼光が鋭くなって拳をドンッ‼とテーブルに叩きつける井坂君。

あぁ……毎週夕方6時に会える髪の毛1本の某国民的お父さんみたいだ、ちゃぶ台じゃないのが本当に残念。































………ただね、怒鳴る内容が“愚痴系恋バナ”ってどうなのよ。

















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