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□素直に嫉妬、できますか?
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世の恋人たちは、どのようにして嫉妬の意を表現するのだろうか。
「………………。」
「………………。」
「………………。」
「…………あの、龍一郎様。先程からずっと私を見ておられますが、何かご用でしょうか。」
「べっ、別に。」
「左様でございますか。」
朝比奈は短くそう言うと、再び持ち帰った仕事の書類に視線を落とす。
………………仮にも恋人が仕事帰りに家に来てやってんのに、仕事ばっかしてんじゃねーよこの馬鹿秘書が。
そう心の中で悪態をついて、俺もソファーに体を沈めた。
「……………クソッ。」
朝比奈に聞こえないように、小さく舌打ちをする。
今の俺は、ドス黒い嫉妬で心の中も頭の中もグチャグチャでモヤモヤだ。
原因は………………………………………………………………今日の商談。
「………薫君?やっぱり薫君よね!!」
取引先の女性担当者が、商談が終わったあと話しかけてきた。
朝比奈のことを、『薫君』と呼んで。
相手の顔を近くで見た朝比奈もようやく思い出したようで、『久し振りだな』なんて笑ってみせた。
俺は商談が始まった時から気づいてた、彼女が朝比奈の“元カノ”だと。
高校は違った俺たちだけどまぁ何というかこう………………“若気の至り”で何かと理由をつけて朝比奈の高校まで乗り込んでいた俺。
故に朝比奈の交遊関係はかなり細かい部分まで把握していた。つか、それが目的だったし。
そんでもって、彼女は朝比奈の高校に入って2番目にできたカノジョ。この女との初デートの待ち合わせ場所で(あくまで偶然を装って)待ち伏せしたのは…………………………、今考えたらかなりイタい行動だ。
目の前で楽しそうに昔話をする2人の間に、俺の入る余地はない。
(馬鹿朝比奈、テメェいま仕事中だろーが。なに鼻の下伸ばしてんだよ。てかこの女、今さら昔の男に色目使ってんじゃねーよ。)
次から次へとめどなく溢れてくる、黒い感情。
本当は今すぐにでも、朝比奈からこの女を引き剥がしたい。
『朝比奈は俺のモノだ。』、そう叫びたい。
だけどソレができないのは、別に男同士だから躊躇ってるだとか“丸川書店専務取締役”の立場上自重しているだとか、そんな理由ではない。
プライド。
俺様の無駄に高いプライドが、邪魔をした。
「でも本当に懐かしいわ。あ、そうだ!!よかったら今夜あたりにでも一緒に食事しない?再会の記念に。」
「っっ!?」
「あぁ…………、そうですね─────────」
「あ、朝比奈っっ!!」
思わず大声を出して、2人の会話を遮る。
「このあとの予定、全部キャンセルしとけ。俺、今から秋彦んとこ行くから。」
「え、宇佐見先生のところ……………………ですか?何故また急に。」
「うるせーな。秋彦の奴がまったく原稿書かないって相川が泣いてるから、この落としの井坂様が直々に出向いてやるんだよ。お前はオトモダチとゆっくりくっちゃべってろ。」
そう吐き捨てて、俺はその場をあとにした。