濃い群青に花が咲いたと思えば
それは一瞬で散り。
また咲いたと思えば
また一瞬で散る。
その儚い時間をアナタと共有できたなら
僕は、それで充分だ。
そんな主人公の台詞が印象深い宇佐見秋彦の新作【花火】は発売早々初版をすべて完売。
各方面から絶賛の声を受け、自身の歴代著作の売り上げを大幅に上回った。
「………なぁ朝比奈、何で俺らは浴衣を着てるんだ?」
「……相川さん曰く、『勢いとノリ』だそうです。」
秋彦の新作が予想を上回る大ヒットを記録したことにより、ここ数日文芸編集部はお祭り騒ぎ。
有頂天の文芸部編集長が、『明日は俺の奢りで祝勝会だ〜!』と宣言。
偶然、近くの河川敷で毎年開催される花火大会も明日だという事が判明。
そしてその花火はこの丸川書店の屋上からよく見えることも、長谷川という男性編集者の証言により判明。
『宇佐見先生の新作の題名は【花火】、なんて素晴らしい偶然!!』と、編集部のボルテージはMAXに。
更に、誰が言い出したかは不明だが『花火に浴衣は必須です!』という趣旨のもと、全員に浴衣着用が義務づけられた。
かくして文芸部の祝勝会は
浴衣と花火は鉄板だ!!
祝☆宇佐見秋彦著【花火】
大ヒット記念花火(鑑賞)大会
in
丸川書店屋上
という名の大宴会となった。
……え?何故文芸じゃない俺がこの場にいるかって?
理由は簡単。祝勝会の幹事を務めることになった相川が、
『【落としの井坂】のおかげで先生の原稿無事にあがったので〜』と、半ば強引に誘われた。
確かに、途中で『書くのに飽きた』とか
ぬかした秋彦を再浮上させたのは俺だ。
だけど俺は『もしちゃんと締切までに原稿あげたら、今度の花火大会の日にチビたんが【浴衣H】、してくれるってさ』
と、秋彦に吹き込んだだけ。
もちろんチビたんがそんなこと言うワケない。
ま、この世には物事を円滑に進めて丸く収めるための『必要悪』ってモノがあるってコトで。
チビたん、これも大人への第一歩だよ。
と、今頃秋彦に好き勝手ヤラれているであろうチビたんにエールを送る。