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□初心、忘るべからず
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※微エロ注意






「………では、私はこれで失礼致します、龍一郎様。」

「っ、勝手にしろ!!」


俺がそう言うと、朝比奈は一礼して部屋を出ていった。


「……なんだよ、アイツ。」


自室のソファーにゴロリと転がり、去っていった朝比奈の後ろ姿を思い浮かべて自己嫌悪に陥る。


今回は、明らかに俺が悪い。

なのにアイツを傷付けてしまう、自分が嫌だ。







今日は久し振りの休日。

明日から俺ひとりだけ九州のほうに2週間出張だから、それの準備の為に会社がくれた休日だった。

最初は専務の地位と社長の息子の権力を使って朝比奈も出張に連れて行こうと計画したけど、朝比奈が『本気でやめてください』と言うから仕方なく諦めた。


だけどその代わり、朝比奈が俺の休みに合わせて有給を取ってくれた。


『俺の為に?』と聞けば、『私がいなくても真面目に仕事に取り組んで頂く為です。』なんてロマンの欠片もない事を言われたけど、そんな事どうでもいい。



お互い毎晩電話やメールをするなんて歳でもないし、そんなんじゃ絶対に満たされないのは目に見えている。

更に付け加えると、10年近く働いてきて、朝比奈抜きで出張するのは実は初めてなのだ。



『2週間分、朝比奈に触れたい。』


本当にそれしか頭になくて、朝比奈を部屋に招き入れた瞬間、アイツが着ていた服を全部剥いだ。



まだ太陽もてっぺんに昇りきっていない午前中から、まるで獣のようにお互いを貪り合う。


親父は仕事、お袋は女子大時代の友達と北海道に旅行中。

更に運が良いことに、朝比奈の両親を含めた家の使用人たちは全員、親父が日頃の感謝を込めてプレゼントした温泉旅行に出掛けていた。


声だって遠慮なく出せるし、ベッドのスプリングが軋む音だって気兼ねなく楽しめる。


睦言のように『かをる』と呟けば、その綺麗な指が髪を梳いてくれたし。

言葉にしなくても目配せでねだれば、優しい唇が顔中に、身体中にキスをしてくれた。


『愛されてる』


そう感じさせてくれるコイツのひとつひとつの行動が嬉しくて。


普段の態度からは想像もできないような恥ずかしい言葉を囁かれても、それは俺の身体と理性をぐずぐずに蕩けさせるだけだし。


受け入れる側としてはちょっと辛い体位を迫られても、『それでコイツもキモチイイのなら』と頑張って応えた。




時間が止まればいい。

薫とずっと、こうしていたい。







──────そんな幸せな刻(とき)に限って、神様とやらは残酷で。





熱に浮かされた時間の終焉を告げたのは、朝比奈のケータイにかかってきた親父からの電話だった。



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