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□朝のおつとめ
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「こうかな…?イヤこうかも……アレ?」


どこにでも売っているようなありふれた緑色のネクタイが、忍の手によって縦横無尽に踊り回る。


真剣な忍は可愛い。だけど『可愛い』と思うだけでは生きていけないのが、オジサンの哀しい実情なワケで。


「あーもー、おい忍。よく見てろよ。」


「えっ、ちょっ!!宮城っ………。」



忍の手に自分の手を重ね、正しいネクタイの締め方に従って忍の手を導く。


あんなことやこんなことをしている仲なのに、ただ手を重ねただけで忍は真っ赤になる。

まったく、威勢がいいのかウブなのかよくわからんねコイツは。


「ほら出来た。これでネクタイの締め方はわかりましたか忍ちん。」


「…………っ。」

「………忍?」

「………んだよ、ムカつく。」


あー、しまった。どうやらお子さまのプライドを傷つけてしまったようだ。


だけど忍。俺に怒っているようだが、そんな顔ちっとも効果無いぞ。


そんな瞳を潤ませて下唇を噛んで、身長差あるから下から上目遣いで俺を睨みつける形になっている。


あーあー、朝っぱらからオジサンを興奮させるような顔、しないで頂きたいね。


「忍、ひとつ良い事を教えてやる。」

「………なに。」


完全に不貞腐れモードに突入の忍の鼻を軽く摘まむ。

「なっ、何する………」

「新婚家庭において1番重要なのは、ネクタイを絞めることじゃないんだぞ。」

「えっ!?」


俺の言葉に、忍の表情が真剣になった。

俺の為に一生懸命になってくれるのは嬉しいが、真剣になりどころを間違えてないかい若者よ。



「あるだろ?新婚家庭お決まりの台詞が。」


「なんだよ。もったいぶってないで早く言えよ!!」


キャンキャンと仔犬みたく騒ぐ忍の耳許で囁く。


「『ご飯にする?お風呂にする?それとも……』ってヤツ。

因みに俺は、風呂よりメシより忍がいい。」


俺がそう言えば、忍は『はぁ!?』とか叫んで顔を真っ赤にする。


まだまだ青いな、少年よ。

「じゃ、俺はそろそろ行くわ。」


そんな忍をわざと1人にして、俺は玄関の扉を開けた。



あ゙〜……、ちょっと時間ヤバいな…………。

こりゃ、上條にまた叱られるかも……。


今後の為にも今夜あたり、忍ちんの為にネクタイの締め方講座でも開くかな。





→あとがきという名の謝罪

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