拍手文
□言葉にしたら、泣けてきた
1ページ/1ページ
【言葉にしたら、泣けてきた。】
※微エロ、ちょいナーバスな木佐くん
「っあ………ゆき、なぁ……好き…す、き……ッン」
「木、佐さん……、俺も………」
雪名はそう言って、優しくキスをする。
それが物足りなくて、もどかしくて。
思わず雪名の顔を引き寄せて、キスを深くした。
もっと………、もっと俺を奪って。
もっと………、もっと雪名を頂戴。
「好き………雪、名すき……」
「木佐さんなんか今日………、スゲェ積極的……可愛い。」
「アッ………ゆき…、すき………雪名が、好き。」
止めようとしても止まらない、雪名への想い。
身体を支配する甘い欲望も、胸を焦がす激しい感情も、雪名と結ばれるまで知らなかった。
「ハァ、…好き………、雪名が……雪名だけ…ンッ…す、き。」
「ホントどうしたんッスか………、さっきから『好き』ばっかり。いつもなら
『ソコじゃない、もっと右』とか『もっと奥まで』とか言うのに。」
『でも、木佐さんに好きって言われるの、キモチイイです。』なんて軽口を叩きながら、雪名は体重をかけて繋がりを深くする。
「ああっ……雪名…雪名……好き。」
「はい…クッ…、俺も、木佐さんが好きです。」
雪名の熱が重ねた肌からも唇からも伝わる。
人の体温って、こんなに高かったっけ…………
────────────
『よぉ翔太!!久しぶりだな。』
『………誰アンタ。』
仕事からの帰り道に声をかけてきた、見知らぬ男。
────正確には『存在を忘れていた男』だったけど。
見てくれが良いのと、俺と同じ種類の匂いがするから、多分前に何回か寝た奴だ。
俺の予想はずばり的中。
更に運の悪い事に、その男に声をかけられたのは、2筋向こうの通りがホテル街という場所だった。
『なぁ……、久し振りにどう?』
耳許で囁かれる言葉に、背筋がゾッとする。
『いや……、マジで無理。』
『はぁ!?なんでだよ。』
【見てくれさえよければ誰とでも寝る】というかつての俺のポリシーを知ってか、俺の拒絶が納得いかない様子だった。
あまりにも諦めての悪いソイツに向かって、思わず言ってしまった。
『俺いま、本気で付き合ってる人がいるから。』
俺がそう言うと、アイツは鼻で笑った。
『は?何ソレ。何かのギャグ?』
本当だ、本気で付き合ってる人がいて、その人の事が本当に好きだ。
だから今は昔みたいに遊んでないと主張しても、相手はただただ腹を抱えて笑うだけ。
『ハハハッ、お前って馬鹿?
お前みたいないい加減に遊んできた人間が、本気で他人を好きになれるって………マジで言ってんの?教えてやるよ。
ソレ……ぜってーただの勘違いだから。』
その言葉を聞いて、頭が真っ白になった。
俺みたいな奴は、本気で他人を好きになれない?
30年も生きてきて初めて知ったこの想いが……、『勘違い』?
違う………、そんなワケない。俺は本気で…………。
それからのことは覚えていない。気づいたら、雪名のアパートの前にいた。
『あれ?木佐さん、どーしたんですか?こんな時間に………』
『っ雪名………好き、…………抱いて。』
────────────
「雪名………、好き。」
「はい、俺もです。」
結局情事は明け方まで続き、俺たちは汗ばんだ身体を寄せ合ってグッタリとしていた。
さっきからひたすらしつこく『好き』を繰り返す俺に、雪名はひとつひとつ丁寧に返してくれる。
雪名と出逢う前のあの頃は、『好き』という言葉ほど煩わしいものはないと思っていた。
『好き』が美しいのは、漫画や小説の世界だけ。現実の『好き』は、所詮は汚い性欲や醜い独占欲の言い訳でしかない。
だからこそ。
一夜限りの戯れだとしても、軽々しく『好き』を口にしたくはなかった。
言葉遊びだと分かっていても、行きずり相手から『好き』を聞くのは苦痛で堪らなかった。
だけど今は……、本当の恋に出逢った。
「すき………好き……、本当に……。」
言葉にするだけで、身体が甘く痺れる。
雪名が『俺も木佐さんが好きです。』、そう言ってくれるだけで、嬉しすぎて思考回路がぐちゃぐちゃになってしまう。
(あぁ………。)
いっそこのまま、雪名がくれる『好き』に溺れて沈んでしまいたい。
また昔みたいに欲望と快感だけの虚しさを味わうくらいなら、雪名への『好き』で呼吸が止まってしまえばいい。
………なんて、歳にもキャラにも合わないことを考えてしまったり。
だけど、本当に。
俺は雪名が、好きだ。
「、雪名…………。」
「はい………、何ですか、木佐さん。」
雪名の顔が好き。雪名の声が好き。雪名の身体が好き。
明るい髪も、沢山キスしてくれる唇も、俺を快感に導くその手も。
王子様な雪名も、不機嫌な雪名も、俺が知らない雪名も。
全部、全部好きだから。
だから──────
「木佐さん………、泣いてるんスか?」
「ううん………、泣いてない。
雪名………、好き。」
〜END〜