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□吉川千春大先生様の不可解な行動
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【吉川千春大先生様の不可解な行動】

※月刊エメラルド編集長視点





時はランチタイムを少しばかり過ぎた頃。

場所は丸川書店内にあるラウンジ。

缶コーヒーと簡単なお菓子を携え、月刊エメラルド編集長である俺は、丸川書店の稼ぎ頭である少女漫画家吉川千春先生こと吉野千秋さんと向かい合って座っていた。

「本当に申し訳ありません。わざわざご足労頂いたのに、羽鳥が席を外してまして。」

「いえ………、アイツも忙しいですから。」

周期も明けて、穏やか且つ平和な日々(エメ編においてはかなり貴重な状況)を送る俺たち。

吉野さんには、隔月発行のエメラルド増刊号で抽選プレゼントの目玉にする『吉川千春直筆サイン入りイラスト』を持ってきてもらった。

「羽鳥といえば、今日のアイツ、何かおかしいんですよ。

いつもは編集部に1番乗りで来るのに今日は何故か始業時間ギリギリに出社したりして………」

「え゙っ………」


俺の言葉に、吉野さんは口に入れようとしていたクッキーをポロッと床に落とした。

「あ゙ーっ!ごめんなさい!」

「いえいえお気になさらずに。あとで掃除しておきますので。」

「いえっ!!ちゃんと自分で拾いま─────痛っ!!」

クッキーを拾おうと床に屈んだ瞬間、吉野さんは小さな悲鳴をあげてその場にへたり込んでしまった。


「大丈夫ですか、吉野さん。」

「あ、ハイ………すみません。」

「腰、痛められたんですか?」

「あっ………、あのっ!ここここれは、ちょっと変な体勢で寝ちゃっただけで!あ、イヤ………。」

何も言ってないのに、何かを隠すように必死に弁解する吉野さん。



一体何を隠そうとしているのか………………………まぁ、簡単に想像はつくが。

そのあと吉野さんは腰を庇いながら、やっとのことで立ち上がった。

足腰がプルプルしていて、まるで生まれたての小鹿みたいだ。



…………ダメだ、面白すぎる。

必死に笑いを堪える俺に、近くにいた女性社員2人組から更なる追い討ちがあった。



「うっそ!!それ本当!?」

「ホントだって!!羽鳥さんの今日のスーツ、昨日と同じなの!

チャコールグレーのスーツにストライプのシャツに藤色のネクタイ!!」

「ミサコってば、目ざといわね〜。ま、アンタが熱狂的な羽鳥さんファンなのは前々から承知してたけど。」

「だってショックだもん!
羽鳥さん、絶対にカノジョの家から直接出勤だって!」

「まぁまぁ、羽鳥さんも男ですから。帰って着替える時間も無くなるくらい、出勤ギリギリまでカノジョとヤりまくってたんだよ、きっと。」

「も〜、カオリってば職場でそんな生々しくエロい事言わないの!」



ほおほおナルホドね。

スーツが昨日と同じか、気づかなかったな。

トリも朝から楽しそうだな、羨ましい。




取り敢えず、俺が今やらねばならない事は…………………


「吉野さん、大丈夫ですか?」

「……………ハイ。」

真っ赤になって石化している吉野さんをどう復活させるか、ということだ。


〜END〜

おまけ→


「じゃあ、俺はこれで失礼します。」

「はい。今日は本当にありがとうございました。……………あ、そうそう吉野さん。」

「はい、何ですか?」

「実はさっきから気になってたんですけど、右耳の後ろ、なんかちょっと赤くなってますよ。」

「えっ!?!?!?!?」

「今の季節は蚊が多いですからね。あ、クリームタイプの塗り薬でよければ編集部から取ってきますが。」

「いいいいいえ!!大丈夫です!!こんなの手で隠しとけば…………。」

「えっ、『隠す』?」


「あ………、おおお俺もう帰ります!!さようなら!!」

「はい、お気をつけて。

…………ホントは、左耳の後ろなんだけどね。」


〜END〜


 

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