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□たった4文字
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星って………、こんなに綺麗だったっけ。
ふと上を見上げたら、群青色の空に星が散らばっている。
東京でも星が見えるなんて、初めて知ったな。
はぁ……………と息を吐くと、その息は真っ白になってゆらゆらと揺れ、静かに消えていった。
「うー……、寒い……。やっぱ上着着てこればよかったなぁ……。」
もうどれくらい、ココでこうして座っているのだろう。
後ろの冷たい壁にコツンと頭をぶつける。
冷たい壁の正体は、トリの家の扉。
その扉が開くことはない。この部屋の主は、まだ帰宅していないのだから。合鍵は持っているが、とある理由により使うことを躊躇っている。
「トリの馬鹿……、早く帰ってこいよ。」
吉野千秋29歳。職業、少女漫画家。
幼馴染みであり担当編集であり、恋人の羽鳥芳雪と…………………………………………………、ただいま絶賛ケンカ中です。
キッカケは本当に些細なこと。
月1の恒例行事であるデッド入稿を終え、例のごとく俺もトリも燃え尽きた。
だけどやっぱりトリは凄い。
そのフラフラの体を引き摺って俺のマンションまで来てくれて、グチグチと説教を交えながらも、俺に完璧なご飯を用意してくれた。
原稿を書き上げるまで、1日3食キチンと食べた記憶なんてない。身体がまともな食事に飢えていて、トリのご飯が目の前に並べられた時には、もう『神様仏様トリ様』だと思った。
いつもなら、『羽鳥お母さん最高!!』…………そう叫んで彼を褒め称えただろう。
だけどそれが恋人が一瞬にして般若と化す魔法の呪文だというのは、いくらアホな俺でももうわかっている。
だけど、褒め称えずにはいられない。
言葉では表現し尽くせないこの感動を、なんとしても彼に伝えたい。
そう考えたら、自然と口が動いてしまった。
「うまいっ!!最高だよトリっ!!やっぱりトリのメシが世界一だ!!」
「そうか、ありがとう。よく噛んで食えよ。」
そうだ。トリのメシは最高だ、世界一だ。言われなくともよく噛んで味わって頂く。
ここまではよかった、ここでストップしておけばよかった。
最後に思わず発した一言が、余計だった。
「お前ならいつ何処に嫁に出しても、俺ぜんっぜん恥ずかしくない!!」
その日から、トリとの連絡は途絶えた。
荷物をまとめてサッサと帰ってしまったアイツに取り敢えず謝ろうとケータイに電話しても、完全に無視。メールも返信無し。
一度次号分のプロットについて相談する為に電話した時は、アッチもあくまで仕事にプライベートを持ち込まないスタンスなのか、その時は電話に出てくれた。
プロットの話が終わった後に『あの時はゴメン』とコチラから謝った。
なのにあの堅物ワーカーホリック!!
『母親は普通、自立した娘にしょっちゅう連絡は寄越さないぞ。』と吐き捨て電話を一方的に切りやがった!!
んで、次第にコチラも馬鹿らしくなってきて、謝る気も失せてしまったのだ。