群青の鮫、番外編

□お礼とそして、
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「世話になった。改めて、礼を言う」
「気にするな。オレ達が勝手にしたことだしな」
「その通りですよ、スクアーロ殿。拙者達は礼を言われるようなことなど、何もしておりません」

深々と頭を下げたスクアーロに、ラルとバジルはカラリと笑いかけた。
その様子を、沢田家光が遠巻きに見ている。
ディーノによってホテルまで連れ去られた後、スレ違いを解決した二人は何も言わずに出てきてしまった沢田家に、再び訪れていた。
シャマルは既にいなくなっていたのだが、入れ代わりに門外顧問チームがいた。
家光とスクアーロの間に一瞬火花が散ったものの、ディーノの仲裁で事なきを得て、家光と共に来ていたラルとバジルに今現在頭を下げていると言うわけである。
代理戦争敗退以降、他のチームとの関わりを一切持っていなかった家光やオレガノ、ターメリックは、頭を下げたスクアーロに目を見張っている。
そしてそれを当たり前のように受け入れているラル、バジルにも驚いているようだった。

「なあツナ、コイツらどうかしちゃったのか……?」
「……イメージとは違うと思うけど、スクアーロって結構礼儀正しいよ」

答える綱吉の声には、自分より付き合いが長いのに知らなかったのか、という呆れの感情が少なからず含まれていたが、家光を目の敵にしているスクアーロは、今まで仕事以外で彼とまともに話したことはないに等しい。
家光がスクアーロの素の状態を知らないことには、何もおかしな事はないのだ。

「何かあれば、必ず力を貸す。オレには、コレくらいしか出来ねぇが。その時は遠慮せずに言ってくれ」
「そうさせてもらう」
「拙者も、そうさせていただきます!!」

マフィアの世界はギブアンドテイク。
スクアーロ的には、借りは返さねば落ち着かないらしい。
だが何を返せば良いのかもわからず、スクアーロには頭を下げて、気持ちを伝えようとするくらいしか出来なかった。
二人へ礼を言い終わり、顔を上げたスクアーロは、今度は綱吉達に向き直って言った。

「お前らにも、助けられた。この恩は必ず返す」
「そんなに畏まらなくても……!って言うかスクアーロには、オレ達だってたくさん助けられてきたんだもん。あれくらい当たり前だよ!!」
「そうなのな!スクアーロには色んな事を教わった。その恩を返しただけだなのな」
「ま、どうしても返したいって言うなら構わねーけどな」

憎たらしく言った獄寺に、スクアーロははにかんで笑いながら、嬉しそうにもう一度頭を下げた。
その後、自分よりも低い獄寺と綱吉の頭をぐちゃぐちゃと撫でて怒られている彼女を見て、不満そうな顔をする人物が二人いた。

「何かオレと態度違わねぇか?」
「日頃の行いのせいじゃねぇのか?」

一人は彼女と一緒にここへ来たディーノ。

「オレの知らない間に何であそこまで馴染んでるんだ!?」
「バジルやラルの報告を聞く限り、生来真面目で面倒見の良い人物のようですから、子供達にも懐かれやすいんでしょうね。彼、親方様よりも断然イケメンですし」

もう一人は、自分に対してよりも、スクアーロに対しての方が態度の柔らかい綱吉を見て嫉妬する家光。
冷静に分析するオレガノの、最後の言葉に家光は撃沈した。

「今は顔とか関係ないだろ!?」
「そんなことありません!イケメンとむさいオジサンなら迷わずイケメンを選びますよ!」
「ターメリックー!オレガノが苛める!」
「結局、顔なんだな……」
「ターメリックーっ!?」

門外顧問男性陣が撃沈され、膝を付いているのを見ながら、ディーノは、そう言えばスクアーロの性別について何も話してなかったな、と思い至る。
言ったら……、今度はオレガノも撃沈しそうである。

「……言わねー方が良いかな」
「言わない方が傷は浅く済みそうだな」

ロマーリオの言葉にディーノは深く頷いた。
バレるまでは隠しておこう、彼らの心身の健康のためにも。
強く決意し、拳を握ったディーノ。
隣ではロマーリオも、どこか遠い目をしている。

「あ、ところで、スクアーロって結局どこに泊まるの?チェッカーフェイスはオレん家に泊まれって言ってたけど」
「着の身着のままに連れてこられたからな。金もねぇし、悪いが泊めてもらえるとかなり助かる、が……」

スクアーロは中途半端に言葉を切って、チラリと家光の方を見やる。
彼らもこの家に滞在するというのなら、かなりの大所帯になってしまうし、何より家光と同じ屋根の下で過ごすというのが生理的に無理、と、スクアーロは心の中で呟く。

「あ、父さん達がいるとやっぱ……気まずい、かな?」
「まあそうだな。だがそれだけじゃなくてよ、こんなにいたら流石に迷惑になるだろぉ」
「母さんならむしろ喜びそうだけどね」

空笑いをする綱吉。
確かに奈々は喜びそうだ。
だが恐らくこの大人数が泊まって一番ストレスが溜まるのが彼なのだろう。
スクアーロやバジルはともかく、父である家光や、一時は自分を鍛えてくれていたラル・ミルチが彼に胃痛をもたらすようだ。

「オレはどこかで、適当に泊まるところを見付ける」
「え、でもお金ないんでしょ?」
「何とかなる」
「そんな滅茶苦茶な……」

まあ一文無しといえども、スクアーロには多少の宛はあったし、いざとなればどこかで野宿でも何でもすれば良い、なんて考えていたのである。
だがスクアーロのその考えは、突然現れた人物によって呆気なく切り捨てられた。

「スクアーロちゃん来てたの?よかったぁ!ご飯作りすぎちゃって!良かったらご飯食べて泊まっていって!!」
「ちょっ、母さん!?」

キッチンから顔を出した奈々は、スクアーロの姿を認めると顔を輝かせて夕飯に誘う。
スクアーロの顔がひきつっている。
基本的に奈々からの誘いには弱いのだ。
キレイな女性からのお誘いは断れないのがイタリア人の血なのである。
彼女もまた女であることはこの際関係のないことだ。

「あら、ディーノ君も来てたのね!一緒に夕飯どうかしら?」
「お、良いな!折角だしもらってこーぜスクアーロ!!」
「……でも、」
「またお仕事が忙しいのかしら?」
「いや、そうじゃねぇけど。……良いのか?」
「当たり前よ!是非食べていって!!」
「なら……そうする」

スクアーロは遠慮がちに頷き、結局今日は門外顧問チームと共に沢田家に泊まることになってしまったのであった。
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