群青の鮫、番外編

□闇に映える白銀
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オレ様は剣帝、剣帝テュールだ。
イタリアの巨大マフィア、ボンゴレの独立暗殺部隊ヴァリアーにて、ボスを務めている。
オレ様が、剣帝と呼ばれるようになって久しいとある日、オレ様はとある拾い物をした。

「おい、この書類を諜報部に届けてこい」
「ゔおい!テメーオレのことパシりか何かと勘違いしてんじゃねぇのかぁ!?」

オレ様の前でぎゃんぎゃんと吠えている銀髪の少年、それが拾い物だ。
噂は大分前から聞いていた。
世界中の剣豪を倒して回る、白皙の美少年がいると。
数日前、諜報部に頼んで彼の居場所を調べてもらうと、ちょうど近くにいるらしい事がわかり、オレ様は仕事もおいてそこに向かったのだった。
実際に見てみると、なるほど確かに、美少年という呼び名に相応しい少年であった。
透き通るような白い肌に、キラキラと輝く白銀の髪。
踊るように軽やかな足取りで戦うその少年に、柄にもなくオレ様は見惚れた。
是非とも奴を手に入れたい。
そんな気持ちから、オレ様は奴に声を掛けていた。

「素晴らしいな、お前。うちに入らないか?いや、うちに入れ、餓鬼」
「あ゙あ?」

顔に似合わず、ドスの効いた……しかしまだ幼さを残す、少し高めの声が返ってくる。
つい先程まで戦っていた剣士は、奴の足元に倒れ伏している。
口程にもない、とばかりに男の脇腹を蹴った少年は、オレ様の事も冷めた目で見据える。
しかし数秒もすると、オレ様の正体に気付いたらしい。
はっと息を飲んで、視線を鋭くさせた。

「なんでオレが暗殺部隊なんかに入らなきゃならねぇ?舐めたこと言ってるとカッ捌くぞぉ!」
「おや、ヴァリアーの事は知っているのか?なら当然、オレ様の事も知っているだろう?」
「……剣帝テュール」

やはりオレ様の事は知っていたか。
得意気にふんと鼻を鳴らし、オレ様は少年に言う。

「ならば話は早い。お前、世界中の剣豪と名の付く者に喧嘩を売りまくっているそうだな。オレ様も相手をしてやろう。その代わり、マフィアになれ。お前が入ればヴァリアーは百人力だ」
「ヴァリアーもマフィアも興味はねぇ!」
「ならばお前とは戦えんなぁ」
「……」
「考えろ。だが考えた末に来ないと言うのならば……」
「ならば?」
「拐う」
「結局ヴァリアーに行くことは確定じゃねぇかぁ!」

奴自身は、本当に剣豪と戦う事にしか興味がないらしく、ヴァリアーへの誘いは断られてしまう。
普通なら喜んで飛び付かれるようなモノなのだが、価値観の違い、と言うやつか。
見れば、負けた剣士も死んではいないらしく、蹴られた脇腹を押さえて呻いている。
この少年は、マフィアでもなく、殺し屋でもなく、かといって一般人でもない、中途半端な位置にいるようだ。

「チッ……!まあ良い。テメーと戦ってやる」

少年が暫く考え込んだ末に言った言葉に、オレ様は嘘を感じ取る。
きっとヴァリアーに入る気はないのだろう。
オレ様に勝って、そしてまた別の剣豪を倒しに行くつもりなのだ。
まったく、自分勝手な奴だ。

「よし、ならさっさとアジト行くぞ」
「は?……はあ゙!?んでわざわざアジトに行かなきゃならねぇ!ここで良いだろぉがぁ!!」
「いや、お前がヴァリアーに入った時に、入隊条件を満たしてなかったら困るからな。まずはお前に必要な事を叩き込んでから最後にオレ様と戦って、そしてヴァリアー入隊だ!」
「そんな話聞いてねぇぞぉ!却下だ却下ぁ!」
「ちなみにアジトに愛用している剣を忘れたからどっちにしろ戻らねば戦えない!」
「もう帰れテメー!!」

しかしオレ様には、こんな人材をみすみす逃がしてやる気はない。

「もういい、今の話はなしだぁ!」
「いいや!一度口にしたことは守ってもらわねばならんなぁ」
「あ゙?……っ!?」

立ち去ろうと踵を返す少年に、剣の切っ先を向けた。
愛用の剣とは違うモノだが、これでも奴を振り向かせるには十分だろう。
そしてオレ様の思惑通り、何とか剣を受け流した少年は、餌を目の前に放られた獣のごとく、瞳をぎらりと光らせる。
オレ様にしては珍しく、ニヤリと笑いながら、口を開いた。

「……命令だ、来い」
「……はっ、悪くねぇ」

こうして、剣豪狩りの少年――スペルビ・スクアーロをヴァリアーへと連れ帰ることに成功したのだった。

「…………ああ、そうだ。おい、そこの剣士、始末しておけ」
「御意に」

スクアーロには気付かれないよう、そう指示を出した。
まだ生きていたその男は、気を失った振りをして聞き耳を立てていたらしい。
奴をヴァリアーに入れるまでの間に、邪魔でもされたら堪ったものじゃない。
何より、

「負けて尚、その命を永らえるなど、不様極まりない。……そう思うだろう?」

少年と共に歩く道で、後から追い付いてきた部下の纏う血の臭いに、そう呟いた。
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