群青の鮫

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世界は、真っ黒だった。
自分の体を押し潰すほどの、圧倒的な闇。
自身を守るように膝を抱えて、丸くなる。
米神に、肩に、背骨に、腰に、腿に、膝に、踝に、爪に、髪の一本一本までに、闇が伸し掛かってくる。

「さむい……」

闇が、じわりじわりと、皮膚から染み込んでくるようだった。
押し潰し、染み入り、体中の肉をバラバラに解していく。
グズリと潰れる。
ドロリと溶ける。
ヌジャリと剥がれ落ちて、剥き出しになった骨にまで、闇が重たく伸し掛かる。
暗い、くらい……。
このまま、死んでいくのか。
一人ぼっちで、肉と骨とが、バラバラになって。

「くらい……くらい……ああ、さむい……」

蚊の鳴くような、頼りない声が、どこまでも続く暗闇の中に消えていった。
持ち上げた手には、もうほんの少しの肉片しか、残ってない。
寒い、寒い……。
目を強く閉じ、自分の体を、抱き締めるようにして、もっともっと、縮こまる。
だが不意に、胸に抱き込んだ手を、暖かなモノが包み込んだ。
それに引かれて、きつく抱き締めていた腕が解かれる。
骨ばかりになった体を、暖かな何かが優しく包んで、癒やしていく。
柔らかな光を顔に受けて、ゆっくりと目蓋を開ける。
それは、金色に輝いていて、それは、まるでそれは………………


 * * *


「……スクアーロ?目が覚めたかい?」
「マーモン……?」

オレは視界を埋める真っ黒なフードを茫然と見詰めた。
身を起こすと、背中に鈍痛が走る。
眉間にシワを寄せて低く呻いたオレの背を擦りながら、マーモンが慌てたように言った。

「無理しちゃダメだよ!骨は大丈夫だけど、十分重症なんだから!!」
「……ああ」

返した声が掠れていた。
さっきのは、夢、だったのか……?
胸の高さまで持ち上げた手は、少し震えてはいたが、いつも通りの剣ダコだらけの手だった。

「ベルから話は聞いたよ。まさか復讐者達が奇襲を仕掛けて来るなんて……」
「お前らアルコバレーノがいない隙を狙ったんだろうなぁ」
「うん、他のチームも襲われたって……」

他のチームも……ってことは、六道達ヴェルデチーム、門外顧問達コロネロチーム、そして沢田達、リボーンチーム……。

「……他のチームの被害は?」
「コロネロチームが時計を壊されて脱落したそうだよ。ヴェルデチームとリボーンチームは対した被害はなかったって」
「……そうかぁ」

目を眇めて、手を見詰める。
震えは止まっていた。
夢の中の暖かい手、冷たく固い骸のようなオレの体。

「……ザンザスは、」
「手当てをして休んでるよ。他のみんなも、大部屋で休んでいるよ」
「わかった」
「え、ちょっとスクアーロ、何して、」
「ああ?ザンザスのとこに行くんだよ」
「何言ってんのさ!!君、自分が如何に重傷かわかってないでしょ……ちょっとスクアーロ!!」

マーモンの言葉には耳を貸さずに、身支度を整えて部屋を出た。
いつもは見ないような夢を見た。
いや……最近よく、変な夢を見る。
どれもこれも、死を予感させるような夢。
オレは、死ぬのだろうか。
たった一人、あの夢のように押し潰されて消えてしまうのだろうか。

「……」

死ぬことは、ずっと昔から覚悟していた。
でも、今はまだ死ねない。
やることをやらないと、死ねない。
握った手のひらに爪が食い込む痛みを確かに感じながら、幽鬼のようにひっそりと、奴らが待つ部屋へと歩き出したのだった。
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