群青の鮫

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「……そうか、そのバミューダ率いる復讐者(ヴィンディチェ)が8番目のチームとしてスカルチームの時計を奪い参加を表明してきたと……」
「うん……それで、あの、大丈夫?」
「……大丈夫なように、見えるのか?」
「……愚問だったね」

2日目の戦いが終わり、なんとかザンザスを落ち着けたオレたちは、聞き逃したチェッカーフェイスの話をマーモンから聞いていた。
ルッスーリアが術士達を配備して最上階の復旧を試みている横で、オレはザンザスの肘鉄を食らって腫れてしまった頬を手当てしていた。

「……我々との戦闘より、XANXUSに殴られた傷の方が重いのではないですか?」
「まあ、慣れてるしな……。大したことはねえよ」

自分で言っておいて、何だか空しくなってしまった。
労るようにガーゼの上から患部を撫でた風は、ピョイと肩から降りた。
因みにオレの傷は風が治療し、オレはマーモンの傷を手当てしていた。
といっても、呪解をストップして赤ん坊の姿に戻った時に、ほとんどの傷が塞がってしまっていたらしく、残った僅かな切り傷に絆創膏を貼る程度しかすることはなかった。
ますます、謎が多くなったな……。
成人を赤ん坊にする呪いも、それを一時的に元に戻すことも、その際に傷が回復したことも、全てが人智を越えている。

「ありがと、スクアーロ。じゃあ僕達、スカルの様子を見てくるよ。リボーンとユニから、話し合いに呼ばれてもいるしね」
「あ゙あ、気を付けていけよ」

ちょこちょこと歩いていく二人を見送り、幻術で元の姿に戻った部屋のソファーにぐったりと身を預けた。


 * * *


ソファーで少し力を抜いて、体力回復に努める。
反対側のソファーでは、レヴィがピンピンして食事を摂っていた。
どうやら、風は相当手加減して戦っていたらしい……。
ムカつくことだ。
下の階に泊まっている客たちの様子を見に行っていたルッスーリアが戻ってきた。

「ホテルの上階がふっ飛んでんのは、誰にもバレてねーだろーなぁ」
「大丈夫よ。うちの術士が10人体制で、幻術でごまかしてるから」

このすぐに下の階には本国から連れてきた偵察部隊と、霧の幻術部隊が控えている。
戦闘中は下の客の安全確保と幻術による目隠しを、そして、今は幻術で、最上階があるように見せかけている。

「しっかしマーモンおせーな……」

ボソッと呟いたベルに相槌を打とうとしたその時、部屋に流れ込んできた殺気を感じ取った。
すぐさま武器を構えて立ち上がる。
仲間たちも気付き、ルッスーリアは驚愕の声をあげた。

「イヤだ!この炎っていわゆる!!第8の属性の炎!?」

部屋の入り口付近、その空間に突如として漆黒の炎が燃え上がる。
オレよりも一回り以上大きく広がった炎から、次の瞬間、復讐者が現れ出てきた。

「復讐者が何故いま……!?」
「……やつらの腕を見てみろレヴィ。コイツら腕時計を着けてねぇ」
「ヤダ!!まさか闇討ちに来たってこと!?」
「しし、代理じゃなければ敵チームに攻撃しても違反にはならないってことか。あったまいー」
「悠長に誉めてる隙はねぇだろぉ!!来るぞぉ!!」

復讐者の鎖が、真っ直ぐザンザスの腕時計を狙って飛んでいく。
ザンザスが憤怒の炎で撃ち落としたが、近くにいたオレ達はそのまますぐに、復讐者との肉弾戦へと縺れ込んだ。

「ぎゃあ!!何よ痛いじゃない!!」
「や、やはり、強い……!!」

普段から武器を使うオレたちは、なんとか鎖を防ぐことが出来ているが、格闘家で武器を使わないルッスは既に何発か受けている。
5対1という有利な状況にも関わらず、オレ達は復讐者に圧され始めていた。
ただでさえとんでもない化け物だってのに、マーモンもいない、戦闘後で万全ではないこの状態での戦いだ……。
敗色濃厚……、こんなときにマーモンのような幻術が使えればと思うが、こんなのは無い物ねだりでしかねぇ。
ナイフやワイヤーを使って攻撃するも、効果は薄い。
剣で攻撃するには近付かねばならないし、近付けばあのやけに頑丈なチェーンの集中砲火を食らう。

「ぐあっ!?」
「ルッスーリア!!」
「余所見すんなレヴィ!!」
「ぐおぉっ!?」

ルッスーリアとレヴィが立て続けにやられた。
攻撃の際の隙を狙ってザンザスが攻撃するも、全て避けられる。
だが、ザンザスのお陰で二人を受け止め、安全圏に投げることが出来た。
この際乱暴だなんだは言ってられねぇ。
すぐにオレも前線へと戻り、猛攻を仕掛ける。
だが突き出した剣が獲物を捉えることはなく、逆に重い蹴りが剣を押し返して、オレは後退を余儀なくされた。
ベルが背後から復讐者を狙う。
だが直後、あの第8属性の炎と鎖がとぐろを巻くようにして膨らみ、爆発を起こした。
幻覚の屋根や壁が吹き飛ばされる。

「こんな時にマーモンはいないのか!!」
「アルコバレーノの会合だと……」

散らばる瓦礫と黒い炎の向こうから聞こえてきた仲間の声に無事を知り、それが復讐者の射程外にあることを確認する。

「ボス逃げて〜!!」
「ボス!!!退却を――!!!」
「誰が退くか、カス共」
「そうだぁ、退がらせやしねぇ」

復讐者一人に負けてちゃ、 ヴァリアーの面子が立たねぇ。
そもそもここで下手に退けば、残されたベル達に命の危険が及ぶし、この近くに広くて人のいない場所がねぇ。
だいたい、復讐者が大人しく退かせてくれるわけがねぇ。
そして何よりも、奇襲なんて卑怯な真似してきやがった奴相手に、退却なんざ、プライドが許さねぇ!

「カスザメ」
「ぅお゙う!!!」

アーロと暴風鷹(ファルコ・ウラガーノ)、霧烏(コルヴォ・ディ・ネッビア)を喚び出し、復讐者に向けて走り出す。
前からはオレ、上からはアーロ左右からはコルヴォとファルコが。
奴があの炎を小出しにし、防御に鎖を主に使用しているところからして、あの炎は多用できるものではないのではないかと推測する。
鎖って武器は厄介だが、逃げ場を無くしてやれば……。
復讐者の鎖は迷うことなくオレの心臓を目指して飛んできた。
それを紙一重で避け、宙に飛び上がり、アーロを壁にしてバウンドし奴の背後に移動する。
これで前横後ろは固めた。
そして……、

「かっ消えろ!!」

前からはザンザスの銃撃。
元々逃げ場の少ないその攻撃に加え、少ない逃げ場をオレとアーロたちが塞いでいる。

「……っ!!」

声をあげることもないまま、憤怒の炎に復讐者が飲み込まれた。
オレは地面に伏せることで、炎の渦をギリギリで回避する。
少し背中と髪が焦げたが、問題なし。
アーロは射程外の場所にいたし、鳥2羽は素早く避けて無事。

「や、やったの!?」
「流石ですボォス!!!」

あの炎に直撃したんだ、ただでは済まねえ。
立ち上がり、舞い上がる粉塵の中に復讐者の姿を探そうと目を細めた時だった。
何かがキラリと光る。

「っ!?ぐぅっ!!」

手首と、足に衝撃が走る。
次の瞬間、カッと熱くなったことで、ようやく攻撃されたのだと認識した。

「くそっ!!直接攻撃を食らったのに……何故だぁ!?」

今の攻撃で、腕時計が破壊されてしまった。
油断した……!!
粉塵の中、ゆらりと影が立ち上がる。
死んではいまいと、予想していた。
だが、まさか、まだ立ち上がり攻撃が出来るほどピンピンしているだなんて……!

「なっ……なんだし、アレ!!」
「復讐者の帽子とコートが……!」
「アレが復讐者の正体だっていうの!?」

一陣の風が、立ち込めていた粉塵を吹き飛ばす。
そこから現れた人間……いや、人間なのか!?
灰色の肌、身体中を走る縫い跡、焦点の合わない瞳……。
こいつはまるで……、

「ゾンビみてぇじゃねぇか……!!」

復讐者はオレを一瞥すると、クルリと背を向けた。
唐突のことに、一瞬訳がわからず硬直する。
しかしすぐに気付く。
オレの腕時計は壊れた……。
残るはザンザスのボスウォッチだけ。
あの野郎、オレを無視してザンザスを倒す気か!!
なめやがって……クソがっ!!

「敵に、背を向けてんじゃねーぞぉ!!!」

血が噴き出す脚を無視し、復讐者の背中に鮫特攻(スコントロ・ディ・スクアーロ)を叩き込む。
それに対して、奴は振り向き様に鎖で攻撃してきた。
正確に眉間を狙ってきたそれを避けることで、狙いが逸れる。
奴の鎖がオレの頬の皮を裂く。
オレの攻撃は奴の腕を掠っただけだった。
しかし、剣を振り抜き、隙だらけのオレに対し、復讐者はもう一本の鎖を既に振りかざしていた。
殺られる……!!
死を覚悟しかけたその瞬間。

「ドカスが!!」
「っ!?」

ザンザスの炎が復讐者に向かって放たれる。
それを復讐者が避けた隙に、なんとか距離を取り、ザンザスの横にまで下がることが出来た。

「油断してんな、カスザメ」
「ちっ、悪かったなぁ!!」

ザンザスに助けられた。
情けねぇ……!!
気を引き締めろ、決して侮るな。
自分に言い聞かせ、宙を裂き迫ってきていた復讐者の鎖を剣で受け止める。
その鎖を伝って、ありったけの嵐の炎を流し込んだ。
風化し、ボロボロと落ちていく鎖。
嵐の炎が奴の体に届くより早く、鎖は切られ、逃げられた。
逃げたその先、破壊し尽くされたエレベーターホールの上空。
待ち構えていたザンザスが、銃撃を放つ。
気付いた復讐者は、ザンザスの眉間目掛けて鎖を飛ばす。
その炎は、復讐者の足を掠め、夜空を赤々と照らした。
逆に鎖はザンザスの米神の上辺りを切り裂き、黒い夜空に、パッと赤い血が散った。
ザンザス……!!
避けて更に空高くに飛び上がった復讐者を、アーロに乗って追い掛ける。
落ちてくる復讐者に向かって、今度こそは当たれと、全力を込めて剣を振った。

「……な、に!?」

うそ、だろ……。
オレの剣は、確かに復讐者に当たっていた。
だが、奴の肉を切り裂くことはなく、鎖を巻き付けたその腕に、ガッチリと受け止められていた。
咄嗟に、剣を捨て、ナイフに切り替える。
しかし復讐者は、足を降り下ろす、ただそれだけでナイフを叩き壊し、そのままオレの腹に踵をめり込ませた。

「ぐ、あっ……!!」

宙に体が投げ出される。
そのまま受け身をとることもできずに、背中から床に叩き付けられた。

「がはぁっ!!」
「スク!!」
「ちょっ、スクアーロ!!」

すさまじい衝撃に、肺の中の空気を全部吐き出し、激しく咳き込む。
背中が、腹が、腰が、内蔵が痛い……!!
痛みの中でただひたすらに、紙一重でオレの下敷きになってくれたコルヴォとファルコに感謝した。
もし、もしコイツらがクッションになっていなかったら、オレは死んでいたかもしれない!!
ゾクリと、背中が粟立つ。
ファルコとコルヴォをリングに戻し、立ち上がって剣を拾う。
そしてザンザスの横に立った後も、体の芯が冷えていくような感覚は消えなかった。
背中は打ち付けられたせいで熱を持ってるハズなのに、内側の方が深々と冷えていく……。
マジで、やべぇ……!!
冷や汗が頬を伝った、その時だった。

「みんな!!」

マーモンがホテルの縁から飛び出してきた。
それを見た復讐者が動きを止める。

「撤退する」

復讐者は、一瞬にして漆黒の炎に包まれて消えた。

「復讐者!!一体何が!?あっ、ボス!!隊長!!」

慌てて叫びながらも、マーモンが戻ってきたことに安心する。
これ以上は、マジでヤバかった……。

「ゔお゙ぉいマーモン!!ボスウォッチは守ったぜぇ……。ぐっ、だがぁ……、さすがに、ザンザスといえど、休養が必要だぁ……」

安心した途端、膝から力が抜ける。
全身が、痛かった。
前のめりに倒れ込んだ、その後の記憶はない。
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