群青の鮫

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「ゔお゙ぉい!!おせーぞぉ!!」

ヴァリアーの食堂に怒声が響く。
……オレの声だ。
マーモン呼びに行けと命令し、大人しく行ったかと思えばそのまま中々帰って来なかったベルに、イラついて怒鳴ってしまったのだが、当のベルは素知らぬ顔で席につく。
つい昨日までは沢田奈々という癒しがいたのに、あっという間にこの生意気なガキどもや、融通利かないボンゴレとの仕事の日々……。
ああ、オレは今、猛烈に癒しを欲している!
……猫でも飼おうか。

「で、スクアーロ、話って何?」
「……あ゙あ、話ってなぁアレだ。ヴァリアーの新しい幹部候補生をスカウトするって話だぁ。予想がついてる奴もいるかもしれねぇがぁ、今回スカウトすんのは、未来の戦いの記憶で術士としての新米幹部だったフランって術士だぁ!奴を獲得する!!」

スカウトの話に驚きつつも食事の手を止めなかった幹部達が、フランの名前が出た途端、口に入れていたものを揃って吐き出す。
分かりやすい反応だな……。

「10年後のオレを『堕王子』とか『王子(仮)』とか言いやがったあのクソガエル……?」
「そうだぁ」
「10年後の私に『変態クジャクオカマ』って言い放った子かしら」
「そうだぁ」
「レヴィのことキモイエロイグロイヒゲハナゲ死ねって言ってたあのカエルかよ!!」
「そこまで言っとらん!!」
「……わかったから大人しくしろぉ」

ムカつくガキではあったが、ここまで嫌がられるとはなぁ。
それと、マーモンは誰のことか思い当たらないらしく、疑問符を浮かべ首を捻っている。
未来では死んでいたんだからわからなくて当たり前か……。

「マーモン、お前はあの未来では死んでいたからよくわかんねーだろうが、10年後の未来での出来事が実際に起こったことであり、現実とリンクしているのは確かだ。そして共に戦ったフランも、現在オレ達と同じように未来の記憶や経験を持っているはずだぁ。だとすれば、今の奴をすぐに入隊させても即戦力となる。むしろうちに入れない手はねぇ」

その説明にひとまず頷いたマーモンに、そのスカウトについてくるように言おうとしたところ、ベルに水を差された。

「スクアーロだってあのカエルに色々されてたじゃん。あいつあれより10歳若いんだぜ?ウザくね?」
「ウザいガキが一人増えたとこで、オレの胃痛は変わらねぇぞぉ……」

ゲッソリとしたところで、マーモンから同情の視線が送られてくる。
お金さえ強請ってこなければ、マーモンだって十分癒しになるのにな……。

「お前ら先輩としてちゃんと面倒を……」
「やだねっ!!」
「ゔお゙ぉい!!逃げんじゃねぇベル!!」
「ぐおっ!?ベル貴様っ!!今オレに向けてナイフを投げたな!!」
「しし、これくらい避けろよ、ノロマ」
「ケンカはダメよぉ〜」

逃げ出すベルを取っ捕まえると、ベルが振り向き様にナイフを投げ、それがレヴィの頭を掠める。
結局いつものように乱闘が始まってしまった。
癒し……オレの癒しはどこだ……。
今すぐにでも日本に行きてぇ。
奈々の手料理食べたい。
家光とか沢田とかどうでも良いだろ。
この際、リボーンの存在にだって目をつむる。
休暇が、欲しい……。

「スクちゃん止めるの手伝って〜!」
「有給って残ってたか?」
「ダメよぉスクちゃん!!スクちゃんいないと色んなことが滞るんだから!!」

現実逃避を続けるオレを引きずって、ケンカを止めようとするルッスーリア。
だが止めるよりも前に派手な音を出して、マーモンの目の前の皿に、他の料理の皿が突っ込んだ。

「ボンヤリしてっからだぜ!ベイビッ。……あで!」
「カッコつけてんじゃねぇバカガキぃ!!暴れんなら外行けぇ!……大丈夫かマーモ、」
「よくも……」

我に返ってベルをたしなめ、つーか頭をひっぱたき、マーモンに話し掛けようとしたとき、フードの下に隠れた目をギロリと光らせてマーモンが殺気を発する。
驚いて動きを止めると、一つ舌打ちを溢して、マーモンは食堂から出ていってしまった。

「……おっかねーの」
「テメーらのケンカで怒らせたんだろうがぁ!ったく、さっさとテーブルから降りろぉ。行儀わりぃぞ」

マーモンの殺気にヤル気が萎えたのか、二人とも大人しくテーブルから降りた。
控えていた使用人に片付けを頼んで、オレはマーモンの跡を追う。
トイレっつってたが、書類らしきものを持っていたし、すぐ近くでそれを見ているのではないだろうか。
案の定、マーモンは食堂近くの廊下に突っ立っていた。

「ゔお゙ぉい、マーモン。どうかしたのかぁ?」
「……いや、何でもないよ」
「何でもなくねぇだろぉ。さっき書類みてーなの持ってたようだが、汚れちまったのか?」
「……うん、手紙が」

観念したのか、大人しく持っていた手紙を見せた。
その手紙にはベットリとスープが染みになってついている。
あれでは中身は読めねぇだろうなぁ。

「中身、読んでねぇのか?」
「途中までしか読んでなかったんだ」
「……やっちまったな」

マーモンから手紙を受け取り、ハンカチで大雑把に汚れを拭き取る。
……かなり染みてしまっているな。
それより、中身、白紙なんだが。
あぶり出しか何かか?
その手紙の角には虹色の『R』の一文字。
日本にいるイヤーな奴が脳裏をよぎる。
まさかこれ、リボーンの奴からか?

「とりあえず、あとで漂白剤使って染み抜きしてみるか?」
「ほんと?頼むよ……タダで」
「……じゃあ、代わりに聞かせろぉ。この手紙、リボーンからかぁ?」
「ム、そうだよ」

大当たりか……。
つかリボーンからってことは、アルコバレーノ絡みってことだろう。
なんか大事なことでも書いてあるのだろうか。
隊員のプライベートに干渉する気はねぇが、やっぱり気になるよな。

「てなるとアルコバレーノ絡みだろぉ?読めなかったらどうするんだぁ?」
「……」
「まあ、できるだけキレイにはしてみるぜぇ。……それとさっきのスカウトの話で言いそびれていたがぁ、フランは幻術士だぁ。お前にも出来る限り、参加してもらいてぇ」
「……仕事だからね、仕方ないよ」
「そうかぁ、助かるぜぇ。場所はフランスの秘境ジュラ。すぐに行くから準備したらもう一度食堂に来てくれぇ」
「ジュラ!?」

マーモンは何か思い付いたらしい。
とりあえず伝えたかったことは伝えられたし、早速フランの元へと行こうか。
オレは武器の支度と、染み抜きのための洗剤を用意しに、自室へと向かったのだった。
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