群青の鮫

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「……何だこれはぁ」
「ごめんなさいごめんなさい!!お願いだから許して下さいー!!」
「クフフ……無様ですねガットネロ。ここにカメラがないのが残念でなりません」
「お前も無様じゃねえか六道骸ぉ」

日本に呼ばれ、出来る限りの最速で沢田家まで来たスクアーロは、綱吉の部屋に入った途端に、リボーンに縛り上げられ、同じように縛られて転がされていた六道骸の隣に放り投げられた。
芋虫のように身を捩って起き上がり胡座をかいたスクアーロの前に、仁王立ちしたリボーンがいかにも愉快そうに笑う。
まさに、悪魔の微笑みである。

「……で、わざわざ呼び出した上に縛り上げて何聞きたいってんだぁ?」
「ほ、本当にごめんなさい……!!」
「10代目が謝る必要ありませんよ!!」
「謝るんならそこのチビだろぉ。謝れアルコバレーノ」
「それはともかくとしてだな」
「無視か……怒る気力もねぇぜ」

スクアーロの心境としては、頭が痛い……いやいっそ、頭痛が痛い、とでも言いたいところだろうか。
心なしか髪のキューティクルも荒れているような気がする。

「未来で骸がお前のことガットネロとか呼んでたしな。仲も悪そうだったし、お前らの関係を色々聞かせてもらおうと思ったんだぞ」
「……なんでそんなことを」
「クフフ、あなたには苦い思い出なのでしょうねぇ。僕もまさか、あなたがあの時の人物だとは想像もしてなかったですよ」

骸の眼に、険しい色が宿る。
ハラハラと見つめる一堂は、二人を見比べること以外には何も出来ない。

「で、どういう関係なんだ?」

空気などモノともしないリボーンだけが、スクアーロと骸に答えを急かした。

「……昔、エストラーネオってファミリーがあったんだよ」
「……ん?その名前どこかで……?」
「クフ、間抜けですね沢田綱吉。そのファミリーは、僕達が人体実験の被験体として囚われていたファミリーですよ」
「あっ!!」

全員がハッとして目を見開く。
その中でクローム髑髏が、不思議そうに問い掛けた。

「でも、骸様……。骸様はそのファミリーを壊滅させて逃げ出したって……」

クロームの言う通り、骸らはエストラーネオを壊滅させて逃げたはず。
なら、二人はどこで知り合ったのだろうか。

「確かに、エストラーネオを壊滅させたのは僕です。その時点で、ヴァリアーもガットネロもエストラーネオに用はないはずですがね、偶然にも僕がエストラーネオを壊滅させたその日その時、ガットネロとしてエストラーネオファミリーを壊滅させんと、彼女は来ていたのです」
「じゃあその時にお前らは会ったんだな」
「ええ」
「……」

スクアーロは無言だ。
と言ってもこの場合の無言は、喋りたくないと言うより、膝の上に乗ったリボーンにイラついているせいだと予測される。

「研究員達を殺し、逃げ出した僕達の前に、突然真っ黒な人影が現れたのです。ヘルメットに長いコート、全てが真っ黒でしたが、マフラーだけは赤かった」
「オレたちが見た姿と同じだな」
「……黒いと目立たねぇからな」
「なんでマフラーは赤いんだ?」
「アレしかなかったんだよ」
「嘘だな」
「…………ザンザスにもらった」

プイッとそっぽを向いてボソボソと答えたスクアーロの言葉に、部屋中がざわめく。
あのXANXUSがプレゼント……!?
想像ができなかったのである。

「人からもらったもんだったそうだが、要らねぇからやるって……」
「あ、ああ……!納得!!」

事実を語ったスクアーロの姿には、哀愁が満ちている。
しかし8年以上の間ずっと使い続けていたのか……。
どんだけXANXUS好きなんだろう、こいつ……。

「え、えーっと……、それで二人はどうしたの?」
「勿論僕は攻撃しました」
「攻げ……え?攻撃しちゃったの!?」
「あんな怪しい人物、敵と思わず何だと思うのです?」
「ああ、確かに……」
「幻術による攻撃は、マーモン以外に初めてだったからなぁ、止めることもできずに逃げられた」
「僕達が黒尽くめの人物の正体を、ガットネロではないかと断定したのは、それから随分後の話です」
「六道に逃げられた後、オレは残ったエストラーネオを始末して、薬や憑依弾を回収した。……その後、逃げた3人組の子供を探したがなかなか見付からなくてなぁ。見付けたのはコイツらがランチア達を連れて、脱獄した頃だった」

骸が、驚いたようにスクアーロを見やる。
それには気付かず、クアッと欠伸をしたスクアーロは眠そうに何度も瞬きをしている。

「会ってからずっと探してたのか?」
「そりゃ……もしそいつらが憑依弾や危険な薬を持っていたらまずいし、人体実験で色々弄くられてたようだったからなぁ。保護して、検査したり……話も詳しく聞きたかったしな。まあ、見付けたときには既に、日本に渡っていて、お前らに倒されていたが」
「そうだったんだ……」
「でも、なんで未来の骸はあんなにスクアーロのこと、嫌ってたのな?」

山本の疑問に、クフフと笑った骸は堂々と答えた。

「八つ当たりに決まってるじゃないですか」
「はあ!?」
「この人があと数刻早く来ていれば、僕達は人殺しにならずに済んだのかもしれない。せめてもう少し普通の格好をしていれば保護してもらうこともできたかもしれない。ガットネロのことを知ってからはそう思うこともままありました」
「勝手な言い分だな」
「……わかっていますよ、アルコバレーノ。それでも、そう思いでもしなければ、僕達は生きていくことさえ辛かった。未来の僕は、10年も牢獄に閉じ込められ、やさぐれていたようですし、何よりこの人は、マフィア中のマフィアですしね」

クフクフと不敵に笑う骸も、やはり同じ人間なのだと、綱吉は少しだけ安心感を抱く。
でも、八つ当たりで、骸にキツいこと言われたり嫌がらせされたりするスクアーロは災難だろう。
チラリと窺うと、肝心のスクアーロはウトウトと居眠りをしていた。

「ってスクアーロ寝てるし!?」
「疲れてんのかもな」
「……ゔ」

ぶるぶると首を振って持ち直したスクアーロの頬を、リボーンがぺちぺちと叩いた。

「大丈夫か?」
「……お゙う」
「まあ、お互い今ではボンゴレの一員なんだし仲良くしろよな」
「僕はマフィアなんかになった覚えはありませんよ!!」
「オレはあくまでヴァリアーだしなぁ」

ちゃっかり仲間発言をしたリボーンに向けて、双方から文句があがる。
ニマニマ笑うリボーンに、綱吉は「こいつヴァリアーまで手玉にとるつもりなのか」と戦慄が走るが、それは本人と読心術を使えるリボーンだけが知ることである。

「つぅか用事がそれだけならオレは帰るぞぉ」
「骸はともかくお前はゆっくりしていけ。ママンもご機嫌で夕飯の準備をしてるんだぞ」
「僕はともかくってどういうことです!?だいたい、マフィアの家なんてこちらからお断りですね。帰りますよクローム」
「はい、骸様」

クロームが骸の縄をほどき、自由になった骸はさっさと黒曜ランドに退散していく。
何か言いたそうに、しかし黙って二人を見送ったスクアーロは、ごそごそと手を動かし、縄を切ると、立ち上がって部屋を出る。

「スクアーロ!帰っちまうのか?」
「夕飯くらい食ってけ。シモンのことはボンゴレが聞き取りをしてるし、今回の責任は加藤ジュリーに取り憑いてたD・スペードに押し付けることで決着が付きそうだからな。暇だろ?」
「あ、母さんが楽しみにしてるのは本当なんだよ!!食べていかない?」
「10代目がこうおっしゃっているんだ!!食ってくだろ!?」

リボーンは決めつけてるし、獄寺は脅している。
四人に詰め寄られたスクアーロは、物凄く嫌そうな顔をしながら断りを入れようとするが……、

「食ってかねーと色々とバラしちまうかもな」
「!!」

リボーンのこの一言で、夕飯を食べていくことが決まってしまったのだった。
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